そもそも私が合気道をはじめたのは、武道13段(空手4段剣道3段少林寺拳法3段大東流合気柔術2段柔道初段)の夫の勧め。
目的は「合気道の丹田呼吸法をマスターして持病の喘息を軽くすること」。(詳細は『合気道へ(前編)』にて)
喘息を軽くしたい願いも強いのですが、自分でも、極端な左利きの動きをしていることはわかっていたので、「左右対称」「合理的」「楽できる」も魅力的だったのです。
なにしろ、私の場合、日常生活上、ある程度の「喘息発作による稼動不能時間」を見込んでおかなければいけません。
おかげで、喘息が治まっている時は、普通の人の3倍速で行動して帳尻を合わせるはめに。
「忙しいか、寝込んでるか、どっちかしかないよね」と友人知人に呆れられていますが。
いつも「いかにして合理的に動くか」を模索中。
さて、最近、古武術……昔の日本人の動きを現代に蘇らせ、武道だけでなく、スポーツや介護などの日常生活に生かそうとする研究が、色々な分野で行われています。
昔の日本人と現代日本人の動きの大きな違いは、体の中心、重心の移動の仕方。
同じ側の手と足が同時に前に出る動き(ナンバ)をしていたこと。
昔の人の動きを取り入れて成功したスポーツ選手は、野球の桑田投手、短距離走の末続選手など……たくさんいますね。
以前、『武道と護身(後編)』で、私の妹(テニスが好きなスポーツウーマン)が、「同じ側の手と足を同時に動かす」合気道の動きに衝撃を受けた……という話をしました。
合気道の場合は、右手が前に出れば、前に出るのは右足。左手が前なら左足が前。
ところが、現代人の身体は、右手が前に出れば左足が前に出、左手が前に出れば右足が前に出る……
行進やマラソンの動きを思い出していただくと、わかりやすいですね。
しかし、これは、人間の体がそう動くようにできているのではなく、訓練の成果らしい。
私が合気道をはじめる時、夫に台所に呼ばれました。
我が家の台所には、ダイニングの椅子や机がありません。
空いた3畳ほどのスペースで、ちょっとした武道の稽古ができるのです。
「ちょっと、2、3歩歩いてみ」
夫に言われるままに、私は台所を歩き回ってみました。
「ふーん。手高く上げて歩く癖はないんやな」
「手を高く上げたり、足を高く上げて行進するのって、体育でやったけど、私はあれ、嫌いやったんや。やってて、しんどい」
「そりゃ、当たり前やろ。ムダな動きやねんから」
「ムダ?」
「そりゃ、筋力ついて、やせるかもしれへんけどな。腕やたらに振ったり、足垂直に高く上げたら早う歩けるか? 関係ないやろ」
「そりゃ、そうやな」
夫は、にやりと笑いました。
「まあ、これやったら、なんとかなりそうや。今から、合気道が早くうまくなるために、宿題出す。腰をひねらずに、体の重心を動かす訓練や。これがスムーズにできるまで、毎日練習せい」
その「宿題」とは……
まず、両足を肩幅ほどに開き、やや腰を落とし気味にします。
この時、自分の体の中心を下腹と意識。
手はだらりと下げたまま。
最初に、腰をひねらずに右足を軸に右に反転。
次は左足を軸に左に反転。
この時、足を上げてはいけない……これを繰り返す。
なんのことやらわからぬまま「楽したい」一心で、毎日台所で練習。
この動きがスムーズにできるまでに、2ヶ月かかりました。
実は、この奇妙な「宿題」は、合気道の稽古には存在しないもの。
でも、この謎の「宿題」のおかげで、その後の合気道の上達が早くなりました。
初段を目前に控えた今も、私は、合気道の稽古をしながら、「今より合理的に動いて楽をする」方法はないか、いつも考えています。
合気道を続ければ続けるほど、「現代人より昔の人の方が、合理的な体の使い方をしていたんじゃないか」と思うようになってきました。
「昔の日本人の身体操作を現代の生活に生かす」……
この分野の第一人者は、古武術家の甲野善紀氏ですが、甲野氏とは別の視点から、古流武術の動きを、現代武道に生かそうとしている興味深い文献を、最近見つけました。
……次回に続く……
【関連する記事】
- 矛盾(後編) 腹式呼吸と胸式呼吸
- 矛盾(前編) 呼吸力
- 体さばき(後編) 間合いと位置取り
- 体さばき(前編) 運足の謎
- 呼吸力の不思議(後編) 合気一刀の呼吸
- 呼吸力の不思議(前編) 呼吸と呼吸力?
- 活殺自在(後編) 不殺活人
- 活殺自在(前編) 柔術の系譜
- 丹田(後編) 息と「気」
- 丹田(前編) 三つの丹田
- AIKI(後編) 合気をかける
- AIKI(前編) 武田惣角と植芝盛平
- 古傳(後編) 体軸
- 古傳(前編) 密息
- 呼吸の謎(後編) 呼吸と気合い
- 呼吸の謎(中編) 一技一呼吸
- 呼吸の謎(前編) 踵の息・足心の息
- 心眼(後編) 心眼を鍛える法
- 心眼(前編) 見の目・観の目
- 古を鑑みる(後編) 古流復活