新着記事

2013年07月16日

虚空(後編) 「色」がつく

私は所属道場に復帰できるのか、いや復帰するのか。


武道の世界では、「よそで稽古すれば、よその「色」がつく」と言って、自分の所属道場以外での稽古を忌避する傾向が強いのです。
在宅介護の都合だったとはいえ、3年間、出稽古先で稽古してきて、前より技は上達していると思うけど。

さて、所属道場の方はどう思うか……。

たまに、私が初心者の頃に教えた人たちに出会うことがあって、「いつごろ復帰できそうですか?」と訊かれていたけど。

……まさか、突然その機会が訪れるとは思わなかった。

しかし、まだ出稽古先での課題「人と向き合う」ができてない。

ちなみに、所属道場では「人を包み込んでやわらかく制すること」が重視されています。
稽古方針だけでなく、出稽古先と所属道場は、そういう部分も違うのです。

所属道場へ復帰したら、出稽古先で稽古できなくなるのか……
うーん。……どうしよう。
やっぱり道場の掛け持ちはいかんだろうなあ。

ふと、夫の場合は、どうだったのかが気になりました。
 
夫は空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。
空手家で剣士で拳士で柔術家で柔道家という人ですが。
 
学校の先生に「受けなさい」と言われて取った柔道の段位は別として、他の武道の師範方は、夫が別の武道をしていることについて、何も言わなかったのかな。

車で病院へ向かう途中、私は夫に相談してみました。

「今の出稽古先で3年稽古してきたけど、その間に、技が出稽古先のものになってきてるらしいねん。関西合同稽古があった時に、元の道場の人と稽古して、そう指摘されたんや。でも、私、それには気がついてなかった。……どうしたらいいんやろう。所属道場に戻れるんやろうか」

「ああ、「よその「色」がつく」話のことか。まあ、古流は「伝統を引き継ぐ」いう意味合いが強いから、他武道と平行して稽古するのを嫌うこと多いけど、お前がやってるのは、現代武道の合気道やんか」
「そりゃ、そうやねんけど……」

私は車の外に流れる景色を眺めました。
夏の強い日差しと、街路樹の鮮やかな緑が目に痛い。

「俺の道場は、大山倍達先生が「他武道の長所を空手に生かせ」と言われてたから、むしろ他武道を学ぶことは奨励されとったわ」

「でも、古流剣術もされてた剣道の師範は別として、少林寺拳法の師範が「空手なんかやりおって」とか、大東流合気柔術の師範が「剣道なんかやりおって」とか言わなかった?」
「いや、言われたことなかったな。俺、他で稽古してることは道場で言わんかったし」
「なんで?」
「わざわざ言う必要あらへんやんか」

ハンドルを握ったまま、夫は平然と言いました。

今も立ち居振る舞いの端々に空手家らしさが残っている夫。
現役当時は「見るからに空手家の動き」だったに違いありません。

「まあ、気づいてたとしても、俺は、そういうことを、とやかく言うような、了見の狭い師匠を選んだ覚えはないで」

なるほど、どの武道の師範も夫に「他武道の稽古をするな」と言わなかったということは、夫が他の武道を稽古していることを知っていても、あえて詮索しなかったのか。

「それで、結局、お前はどうしたいんや?」

夫はまじめな口調で言いました。

「……よくわからない。合気道をはじめたのは、丹田呼吸法を習得して喘息を軽くするのが目的やった。でも、「人とつながる」とか「人と向き合う」とかいうことも、大事やとわかったんで、今、それも含めて稽古してる。でも、その一方で、合気道の先祖の柔術も気になる。時々ツボ押したりして、喘息楽にしてくれるやんか。あれの初歩が自分でできればなあと思う」

「自分の体をなんとかしたい、いう気持ちはわからんでもないけど、経絡を専門的にやるのは難しいで。せいぜい、ツボが集まってる部分を温める程度にしとけや。力加減間違えて下手にツボ刺激したら、えらいことになるからな。」
「難しいもんやなあ」

私は溜息をつきました。

「その一方で、時代劇も好きだし日本の歴史に興味あるから、剣術とか古流武術なんかも気になるわけや。昔と違って、合気道一筋にはなられへんみたいやねん。……こういう、あっちこっちに気が移る状態は、あかんとは思うんやけどな」

「なんで、あかんねん。別にええやんか」

私は思わず夫の顔を見ました。
夫はハンドル操作に忙しくて、まっすぐ前を見たままです。

「お前の人生やねんから、お前が好きなように決めたらええやんか。所属道場は「今すぐ戻ってこい」言うてるのとちゃうのやろ」
「……いや、実は、まだ戻れそうだということは知らせてない」
「なんでやねん」
「……よくわからない……」

しばらく夫は黙ったまま運転していましたが、やがて静かに言いました。

「いっそ、気になるもんを、全部追いかけてみるのも手やで」

私は驚いて夫の横顔を見ました。

「そのうち、自分のやりたいことが一つになるやろう。俺の場合は、最後まで空手やったけど。……しばらく、考えてみてもええんちゃうか」

確かに道場から「今すぐ帰ってくるように」とは言われてないな。

「……そうやな。しばらく考えてみる」
「まあ、あせらんこっちゃな」
 
そう言って夫は笑いました。

夫の言うとおり、とりあえずは、今の課題「人と向き合う」ことができるまで、出稽古先で稽古を続けながら、今後のことについて、ゆっくり考えてみます。
ラベル:合気道
posted by ゆか at 16:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
にほんブログ村ランキング
こちらには『ventus』で書かれている内容と同じ分野のブログがたくさんあります。
もし、よろしければご覧ください。

武術・武道ブログランキング

ステーショナリー雑貨ブログランキング