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2013年10月19日

衝撃(後編) 鍵

先日、「正面打ち入り身投げ」の稽古で、衝撃的な体験をしました。


「経絡」と「合気」で、相手の「力」を感じないうちに、すうっと投げられてしまった大東流合気柔術の入り身投げ。
合気道の直系の先祖の武道が大東流なので、「正面打ち入り身投げ」の型そのものは、ほとんど同じなのに。
この違いはなんだろう?

大東流にあって合気道には存在しない技術「合気をかける」……これを使いこなすのは無理かもしれないけど、経絡の方は、なんとしても知りたい。

合気道の源流、柔術は「活殺自在」。
強い力で経絡、ツボ(弱点)をつけば、その痛みで相手を制することもできるし、弱い力でツボを刺激すれば健康によい。
関節をはずして相手を制することもできれば、「骨接ぎ」の技術で関節を固定して治療することもできる。
「人体を壊す」「人体を治す」……この両方を使い分けることができる武術なのです。

例えば、先日の稽古で首を制する時に指を当てられたツボ、首の後ろの「大椎(だいつい・第7頸椎棘突起下のくぼみ)」は体内の熱を除き、感染症を抑える効果。
耳の下の「翳風(えいふう・乳様突起下端前方のくぼみ)」は、熱を冷まし、風邪を除き、耳の聞こえをよくする効果があります。

首と片方の耳の下に力を加えて押さえられたら、人間の重心は簡単に傾くので体勢が崩れやすい。
大東流の入り身投げの崩し方は、力学的に理にかなっています。
ツボも気になるけれども。
もっと人体の構造を知りたいなあ。

私は夫に、元大東流合気柔術家の合気道有段者に、大東流の「正面打ち入り身投げ」をかけられた話をしました。
夫は空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。
私が喘息発作を起こした時に、いつも柔術の経絡の知識を応用して発作を止めてくれています。

「なるほど。大椎と翳風から麻痺の合気をかけられたか。……少しは使えるやつに出会うたようやな」

一瞬にやりと笑った後、夫は私を見据えました。

「そやけど、「合気」は大東流習いに行かんと修得でけへんで。喘息持ちのお前には無理や」

……それは十分わかっています。
その有段者も「大東流は合気道よりも、はるかに体力的にきつい。女性は稽古についていくのが大変です。まして喘息持ちでは難しい。ご主人が大東流ではなく合気道を勧めたのは、妥当なご判断ですね」と言ってましたから。

「「合気」は無理でも、せめて経絡だけは知りたいわ。例えば四教でも、たぶん、押すべき部分はツボじゃないかと思うんやけど、その位置を、はっきり教わることがないから、力づくで押すはめになってるんじゃないかな。それに「力を加えるポイント」が正確にわかってたら、もうちょっと自然に相手を崩せると思うし」

例えば、関節技「四教」は、自分の人差し指の付け根の骨を、相手の手首の骨の間に押しつけながら関節を極めるのですが、これがなかなか極められない。
指の痕が残るほど手首を握られて、ものすごく痛い目にあうこともある。
「そういう技だから」と言われれば、そうなのかもしれないけど。
ツボを的確にとらえれば、自分も力を入れずに技をかけられるし、相手も必要以上に痛い思いをしなくてすむような気がします。

「なんとかして、早く経絡を覚えたいんやわ」
「お前、何をそんなにあせってるねん」

険しい表情の夫。
私はうつむきました。

「去年の手術の後、自律神経がおかしくなってる。急に体が熱くなったかと思うと、いきなり首のあたりが冷たくなってたりして……これから、どんな症状が出てくるかわからんし、どの程度薬で緩和できるかわからんし……」

昨年の秋に手術した時、主治医から「年齢的に更年期なので、これから自律神経失調症がひどくなるでしょう」と言われ、投薬治療をはじめたのですが、今は一番弱い薬で様子を見ている状態。
強い薬に切り替えるかどうか、迷うところです。
主治医に「ストレスが症状を悪化させるので、日常生活ではリラックスを心がけるように」とは言われていますが、現実は難しい。

「仕事上、肩こりとか目の疲れとか、どうしても出てくるし、自分でツボを覚えてなんとかしたいねん」
「……まあ、その気持ちもわからんでもないわ。お前は「陽虚(ようきょ)」で、元々体が冷えやすい。最近それがひどなってるのは、俺にもわかる」

夫はまじめな顔をしました。

「言うとくけど、「ツボ」イコール「経絡」やないで。ちゃんと勉強せい。経絡のことは本でも学べる。そこらへんのマッサージの本やなくて鍼灸師向けの入門本を買え。そして、できるだけ大勢の人と稽古することや。本に書いてあるのは、あくまで基本的なツボの位置や。実際には、人によって位置や深さが微妙に違う。だから、鍼灸師は鍼を打つ前に、必ず相手をさわる。さわってツボの位置を確かめる。まあ、とりあえず、自分のツボさわってみるのも一つの手やろ」

夫のアドバイスで買ってみたのが『ビジュアル版 東洋医学 経絡・ツボの教科書(兵頭明 監修・新星出版社)』。
『骨格入りでわかりやすい経絡経穴図』のサブタイトル、『医療関係者・鍼灸師を目指す学生必読の1冊!』というキャッチコピーもついてます。

この本によると、「経絡」とは気と血が巡る通路のことで、皮膚や筋肉や臓器をつないで全身に張り巡らされています。
表皮に近いところを通る経絡のところどころにあるのが「経穴(ツボ)」。
東洋医学では、体の不調は気と血の巡り悪くなると考えられていて、この経穴を刺激することで、経絡を流れる気と血の流れをよくして病気を治す。

……うーん。やっぱり「経絡」と「ツボ」をごっちゃにしてたな。

今、すこしずつ経絡の勉強をはじめたところです。

月経不順や冷え症、足のむくみに効く「三陰交(さんいんこう・脛の内側、くるぶしから指の幅4本分上にあるツボ)」を押してみたり。
「寒冷前線が近づいてるから、とりあえず風門を冷やさないようにしないと」と、首から肩にストールを巻いて、部屋の中をうろうろしていたり。

この風門(ふうもん)は第2胸椎棘突起の下縁の同じ高さ、背骨の中心から1.5寸離れたところにある風邪や咳、肩こりのツボ。
ここを保温することで、肩こりや風邪の悪化を防ぐことができるのです。

合気道上達のために買った本なのに、ついつい目的と違う使い方をしてしまってますが。

そのうち、経絡をきちんと覚えて「島村と稽古すると、なぜか体調よくなるんだよな」と言われるような有段者になれるといいなと思っています。
ラベル:健康 柔術 合気道
posted by ゆか at 11:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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