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2013年12月14日

一期一会(後編) 禁忌

元大東流合気柔術家の合気道有段者。

人体の構造を熟知している「合気」の使い手に、どうしても聞いておきたかったこと。
「気」と「経絡」についてです。

1995年ごろ、喘息患者の発作止め薬の副作用事故死が多発。
社会問題にもなりました。
この時、私も副作用事故に遭いました。
後遺症を残しながらも辛うじて助かったのは、夫が気道を開くツボを「気」で刺激して、喘息を止めてくれたからです。
一方、事故が起きた時に、医者の指示通りに気管支拡張剤を追加した患者は亡くなりました。

この体験を元に書いた作品で賞を穫り、出版された『アレルギーと生きる』は、マスコミで紹介されて、喘息予防治療ガイドライン改訂に多大な影響を与えることになります。

ガイドラインの規定量内……「医学的に安全」とされている薬の量で発生する副作用事故。
私を救ったのは、皮肉にも、当時「非科学的」とされていた「経絡」と「気」でした。

当時、夫は「少林寺拳法の技術の応用」と言ってたけど、本当は大東流の「合気」を使ったんじゃないか。
あれと「気」の質感が同じだった。
……夫に衝撃系の「合気」をかけられてから、そう考えるようになりました。

ちなみに、柔術の応急処置「活法」にあたる少林寺拳法の「整法」は、高段者にならないと学ぶことができない「禁忌」の技術です。

「合気道の先祖の柔術に経絡の技術があるのに、それが合気道にないのは不思議ですが……。実は、私は昔、喘息発作の最中に、発作止めの薬の副作用の事故に遭い、死にかけましたが、夫が「気」で気道を開くツボを刺激して、発作を止めてくれました。その時、電流をまとった白いエネルギーの固まりが、背骨から足へ抜けていったんです。……今考えると、あれは「合気」だったんじゃないか。そんな気がするんですよね」

「なんて無茶なことを。肺兪(はいゆ)から、太陽膀胱経(たいようぼうこうけい)に衝撃系の「合気」を弱めて流す。加減を間違えれば……」

彼の顔から血の気が引いていました。

「あ、大丈夫です。基本的に、このシチューションなら死にますから。多少の無茶はしょうがない。私だって、直感に従って、医者の指示とは反対の「ステロイド剤の大量投与」なんて、無茶なことやってますから。夫の判断をとやかく言えません」

彼の表情はくもったままです。

「……太陽膀胱経に「気」を流しただけじゃ無理だ」
「そういえば、「気」を流した後、首や肩、肩胛骨の間とかを、背骨に沿って、腰までツボを押してくれましたね」

「なるほど。首の風門(ふうもん)、鎖骨の雲門(うんもん)、中府(ちゅうふ)、肩胛骨の間の心兪(しんゆ)、腰の腎兪(じんゆ)……他の喘息のツボも押してる。それなら大丈夫です」

そうか。やっぱり大東流の技術だったのか。
夫は入門時に『技について人に語ってはならない』という誓約書に血判を押したため、一番身近に大東流の人間がいるのに、大東流のことが全然わからない。
だから、同じ大東流の彼に「夫が喘息を止めた技術の正体」を、どうしても聞いておきたかったのです。

「ありがとうございます。あの時、夫の使った技は、やっぱり大東流でしたか。ところで、ついでなのでお聞きしたいのですが。夫が言うには、私は『観の目』だけは開いているそうなんですが、『観の目』については、どう思われますか?」

「ほほう。『観の目』ですか。常時殺気でバリア張れる能力であれば、実用レベルで使うのは簡単です。しかし……普通に生活できるのなら、いらん技術ですよね。あれは」

苦笑するところをみると、『観の目』が開いている方なのかもしれない。
『観の目』……視力以外の感覚を強化したセンサー。「飛んでるボールが止まって見える」、鋭い動体視力の『見の目』とともに、『心眼』と呼ばれる特殊な技術です。

「確かに、強烈なアレルギー体質じゃなかったら、必要なかった技術です。ハウスダストやカビの胞子やダニなどの「見えない敵」を吸い込んで発作を起こす前に、瞬間的にその濃度を読み取る必要があって、「感覚を磨く」「直感を鍛える」「精神を一点に集中する」系統の本を読んで、長年研究してきました。そのおかげで、鋭敏なセンサーの他に、数百メートル先の敵の位置、大きさや速度を読み取るレーダーとしても使えるようになりました」

「ほう。そのレベルまで……」
「でも、この我流の技術は、私一代で終わらせます。私は「危険を察知する」部分だけが必要で、それを磨いたけど。突然頭の中になだれ込んでくる情報量が半端じゃない。普通の人間ならパンクするでしょう。こんな危ない技術は他人に教えられない。……まあ、私に子どもがいれば、状況が違ってたかもしれないですが」

「……惜しいですね」
「仕方ありません。技を連綿と継いでいかれる古流の皆さんが、うらやましいです」

彼は一瞬まぶしげな表情をした後、柔術の「活法」と「殺法」のツボの押し方を、私に教えてくれました。

「……あのう。こんな物騒なものを、私に教えていいんですか?」
「あなたは、これを誰かに教えますか?」
「とんでもない! こんな危ないものを他人に教えられますか!」

彼は、にやりと笑いました。

「そうでしょう。あなたは、その分別がつく人だからこそ教えたのです。それにあなたの技術は、いずれ消える……。活法の捕り方を合気道の稽古で使って、相手の体調をよくして、殺法の捕り方は護身で使われるとよいでしょう」
 
我流の護身技術……私が自分の身を守るためだけに体系化し、私の死とともに消滅する宿命の技術。
それを承知で、あえて大東流の技術を教えてくださったのか。

「合気道をはじめ、現代武道は誰でもできる形になっていきますが、古流武術は伝えるべき人を選ぶ。合気道から経絡の知識がなくなったのは、悪用を恐れたからかもしれません」
「確かにツボは急所。経絡の知識は、誰にでも教えていいものじゃないですね」

「ご主人の言う通り、鍼灸・整体から経絡を勉強するのは、いいアイデアだと思いますよ。柔術の活法から、健康効果だけを洗練したものが接骨・鍼灸・整体ですから。まず、人間の筋肉や骨の構造を知る。経絡はそれから勉強するものなんですが。あなたの健康を守る上では、喘息と自律神経の経絡の勉強は優先させた方がいいですね。大東流でも、一通りの知識を学ぶだけで3年ほどかかりますから、気長にやってください。あと、合気道の呼吸法「息長法(おきながほう)」について、調べられるといいでしょう」

「ありがとうございます。……ところで、これからどうされるのですか?」
「昔の仲間がいる道場に誘われているので、そちらに行きます。何か質問があれば、いつでもメールをください。また関西合同研鑽会で一緒に稽古しましょう」

にこやかな顔で彼は言いました。

またいつか会えるかもしれないし、二度と会えないかもしれない。
一期一会……それを知った上で、とても大切なことを教えてくれたのです。

去っていく彼の後ろ姿に、私は深々と頭を下げました。
ラベル:柔術 合気道
posted by ゆか at 15:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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