昨年末の秋、先生の転勤で出稽古先の道場がクローズし、所属道場に戻る予定になっていました。
ところが、今年に入って、まだ一度も稽古できてません。
1月から始まる豊中市のスポーツ教室「合気道」で体を慣らしてから、道場の夜の稽古に復帰するつもりでいたのに。
昨年末、入院中の義母が体調を崩し、「ガンの疑いあり」とのことで、検査のたびに同意書を書いたり、検査に立ち会ったり。
バタバタしている間に、所属道場の支部道場の豊中市のスポーツ教室「合気道」の冬講座に申し込み損ねたのです。
教室は10回の講座がワンセットで、年3回。
申込日に申し込めなかった人は、その講座期間は稽古できないシステムです。
つまり、1月からはじまった冬講座が開いている3月半ばまでは稽古に行けない。
もちろん、義母の病状が不安定だから、所属道場で週3回稽古する余裕はありません。
「なんや。難しい顔して。合気道、嫌になってきたんか?」
夫は苦笑しました。
「いや、普通、在宅介護が決まった時点でやめなきゃならんかったのを、そのまま続けさせてもらえたんや。こんなありがたいことはない。……でも」
「でも?」
「この前、イベントで知り合った初段の男性に「10年も続けていて、まだ初段なんですか?」と言われた。「義母の介護でバタバタしていて昇段が遅れています」と答えたら、軽蔑したような目で見られたよ。……まあ、「義理の親の介護で20年? そんな馬鹿なことやめて、さっさと離婚すりゃいいのに」って、今も時々言われるからなあ」
夫は難しい顔で黙っていました。
「介護で所属道場から、出稽古先預かりになって5年経つけど、出稽古先の稽古は昇段規定日数には入らんから、確かに昇段を考えたら、この5年間ムダな努力をしてたという解釈もあるわな。やっぱり「馬鹿なやつ」かもしれん。これまで介護に関わることになった人は、全員合気道をやめてたから、よその道場に預かられて、介護が落ち着いて復帰できるようになった私みたいなケースは、たぶん前例がない」
二段の昇段審査の条件は、初段允可後1年、200日以上稽古した者。
「手術もしてるし、所属道場に戻っても、昔の週3回のペースでは稽古できんやろ。週1回の稽古として、最短で二段昇段まで5年はかかりそうや。……正直しんどいな」
「……で、お前は合気道やめたいんかいな」
「いや、自分なりに課題があるから続けたいとは思う。でも、所属道場がどんな風に変わっているかわからない。創立50周年記念演武会を見に行ったけど、私がいた時よりも、全体の動きが硬くて重くなってた。私の方も、関西合同稽古の時に同門の人に「受身が変わりましたね」と言われたから、私の動きも出稽古先の影響でが変わってるらしい。所属道場の動きに、どこまで合わせられるかわからないし、昔のように、自分のテーマで稽古できる自由さが残っているのかもわからない」
夫は深くため息をつきました。
「どうせ、初段からやり直しなんやったら、いっそ、よその道場で初段からスタートする方がいいんと違うか。そんなにグダグダ悩まんですむやんか」
「とりあえず、3月後半が個人使用の稽古になるから、そこで様子を見て決めようと思ってる」
夫は少し表情をゆるめました。
「まあ、その稽古まで、マンションの中庭で木刀の素振りでもしてたらどうやねん。お前、岩間の木刀持っとったわな。基本の素振りやるだけで、稽古に必要な腕力や握力がつくし、体動かしたら、余計なこと考えんですむやろ」
そういえば、出稽古先の稽古がなくなって3ヶ月。木刀を振っていなかったな。
「そやけど、大東流や合気道の剣の素振りは、剣道の素振りとは違うから、気をつけろよ」
……次回に続く……
ラベル:合気道
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