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2007年05月01日

夫倒れる!

それは唐突な出来事でした。 
2007年4月14日の夜中……正確には15日午前1時。


「……おい……」

ふすまごしに響く夫の声。か細い声。
胸騒ぎした私は、ふすまを開けてぞっとしました。

リビングのソファベッドに横たわる夫。
鼻には血に染まった綿。
そばの屑籠からあふれ出した赤く染まったティッシュの束。

「…さっき……30分ほど…前…から……鼻血……止ま…らんねん…」

昨日の夜中にも、夫は鼻血を出していましたが……
あれは20分後に治まりました。

「止血のツボ押そうか?」
「……さっき……から…押してる……でも……止まらん……明日…講座…あるのに……」

夫はCAD講師。
15日の講座に出る予定でした。でも、この状態では無理。

意識がしっかりしているところをみると、内臓や脳の出血ではなさそう。
でも本当に鼻血なのか?

ふいに身を起こした夫は、屑籠を口元へ。
猛烈な咳とともに、口から出たのは赤黒い血の塊。
鼻からの血が喉に流れ込んでいる。

まずい。
このまま出血が続けば本当に危ない。

「……俺…死ぬ……んや……ろか……」
「大丈夫。死なさんよ。今、救急車呼ぶ」
「……そんなんした…ら…講座……行かれ…へん……」
「このままやったら、出血多量で死ぬよ。病院で血を止めてもらわんと。明日の講座は、誰か代理の人に、行ってもらったらいいやんか」

夫は再び咳き込んで、口から血をダラダラと流しました。

「…わか…った……救急…車…呼べ……」

私は即座に119番通報しました。

「ああ、鼻血でしたら、とりあえず小鼻を押さえて、様子見てください」と暢気なことを言う救急隊員を、「もう1時間以上血が止まらないんです。このまま主人が死んだら、どうしてくれるんですか!」と脅して、家に来てもらいました。

部屋に踏み込んだ救急隊員は唖然。
ソファカバーや床に鮮血が飛び散り、血に染まったティッシュが散乱。
そして、床にうずくまり、屑籠を抱えるようにして血を吐いている夫。

「大変だ!」

救急隊員は、すぐに救急車に残った隊員に連絡をとり、病院搬送の準備にかかりました。

夫はかろうじて歩ける状態。
洗面器に大量にボロ布を敷き、それを抱えて血を受けながら、隊員に支えられて救急車へ。
私も、携帯と財布、ロディア(メモ帳)、喘息薬一式を鞄につめ、救急車に乗り込みました。

土曜日の夜中で受け入れ先の病院が決まらず、その間も血を吐き続ける夫。
救急隊員は夫に血圧脈拍計をとりつけ、病状をみながら、辛抱強く、市内の全救急病院と交渉を続け……結局、自宅から一番離れた救急病院へ緊急搬送。

病院の廊下のベンチで、夫の処置を待っている間、私はロディアに、夫の病状と今後の対応をまとめてメモ。
そして、実家の母に、夫の入院をメールで伝えました。

下手をすると、入院が長引くおそれもあり、そうなると、とても私一人では手に負えない。
やはり頼りになるのが、遠くの義母より近所の実家。

やがて、処置が終わって、若い耳鼻科の担当医が姿を現しました。

「血圧が上がって、血が止まらなかったんです。とりあえず、降圧剤を投与して、止血しておきました。精密検査していないので、断言はできないんですが、おそらく鼻血です」
「本当に鼻血なんですか? こんなに出血してるのに」

担当医の話では、強く鼻をかんだだけでも、鼻の内部の血管が切れて鼻血が出る。
まれに、今回のような大量出血になるらしい。
実際、鼻の粘膜組織に大きな傷があるとのこと。

元々夫は血が止まりにくい人でした。
その上、仕事が忙しく、疲れで免疫力が落ちていて、なかなか血が止まらなかったのです。

しかも出血が多い…パニック状態の体は血圧を上げ、ますます血が止まらない……悪循環。

病院に担ぎ込まれた時の血圧は190〜145。
救急車の中での血圧が162〜83でしたから、とんでもないことになっていたわけです。

「輸血の必要はないでしょうが、ほぼ2リットルの失血は、ちょっと珍しいですね」
「2リットル!」

成人男性の血液量の3分の1強。
血液の半分が無くなると人間は死ぬそうですから、処置が遅ければ、本当に命が危なかった。
貧血がひどいので、当分入院が必要とのこと。

寝台に乗せられ、廊下に運び出された夫は、蚊の鳴くような声で、私に言いました。

「……俺の携帯から……会社に連絡…頼む…今日…の講座…代行……落ち着いたら…こち…ら……から…連絡…する……そ…れから…お…ふくろ…には…知らすな……」
「わかってる」

人工透析を受けている夫の母が、このことを知れば、症状が悪化するかもしれない。

私は7時になるのを待って、夫の携帯から電話をかけ、上司に簡単に事情を伝えました。

「……わかりました。代理の人間を手配するので、ゆっくり休むようお伝えください」

夫の上司は「奥さんも大変でしょう」とねぎらってくださいました。

上司への連絡を終えて、いったん私は家に戻りました。
15日は、偶然年休をとっていたのが不幸中の幸い。
血だらけの部屋の後片付けをした後、実家に報告に出かけました。

「メール見たけど、あんた、いったい何やってんねん! 鼻血なんかで入院して!」

いきなり母に叱られました。

「日頃、不摂生やってるからやろ! ほんまに心配ばっかりかけよってからにっ!」

鼻血で入院したのは夫なのに。
私が説教されるのは理不尽だ。

「……まあ、あんたも仕事があるし、料理なんかせんでいいから、とにかく体休め」

そう言って、母は常備菜やインスタント食品をどっさりくれました。これはありがたい。

家に戻ると、今度は夫から電話。
声はかすれているものの、口調はしっかりしている。
着替えのほかに病院へ届けてほしい物の話。
2リットル失血してるくせに。タフだなあ。

そして、着替えを届けに再び病院へ……
なんと、夫はエレベーターホールにいました。 

「歩けるのか?!」
「……貧血ひどくて、頭くらくらするねんけどな……会社には連絡しといた」
「もう、40過ぎるんやから。いつまでも若いままと違うねんで。気をつけんと」
「……すまん……これから…気…つける……」

夫は弱々しく笑い、点滴の車を引きずりながら、自分の病室に私を案内しました……

ところが、入院して2日目には、余裕が出てきたらしく、「ノートパソコン持ち込めたら、仕事できるのにな」などと言い出す始末。
さては全然こりていないな。

結局、入院して4日後の18日に退院。
1週間の自宅療養の後、現在は仕事に復帰。
今も通院して薬をもらっていますが……診断名『鼻出血』
……なんだか情けない。

夫は仕事の鬼ですが、これを機会に、もうすこし自分の体をいたわってほしいものです。
ラベル:入院
posted by ゆか at 12:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常コラム | 更新情報をチェックする
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