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2015年05月05日

結界(前編)竹垣

「日本民家集落博物館で、お茶席があるから行ってみるといいわよ」


そう言ったのは華道・池坊の先生でした。

日本民家集落博物館は豊中市にあるんですが、近所すぎて盲点でした。

この博物館は1956年(昭和31年)、日本で最初に開館した野外博物館。
江戸時代に建てられた日本各地の代表的な民家12棟を移築復元して展示しています。

国指定重要文化財の「摂津能勢の民家」「信濃秋山の民家」「日向椎葉の民家」、国指定重要有形民俗文化財の「飛騨白川の合掌造り民家」など、文化財ばかりが建ち並ぶ不思議な場所の中で、茶席が開かれるのは通称「北河内の茶室」こと「交野市私市の旧原田家」らしい。

出かけてみることにしましたが、当日は雲一つない晴天で、強い初夏の日差しと燃え上がるような新緑が、病み上がりの心身には重苦しい。
博物館自体が起伏の多い場所にあるから、やたらに坂道を登ったり階段を下りたりするはめになって大変です。

茶道……今回は粗相のないようにしたいなあ。

母が「子どもに教えても月謝は取れん」と、茶道の作法を教えなかったばかりに、国文科の校外学習で訪れた京都・裏千家家元の御点前の席上で「申し訳ありませんが、足をくずしていいでしょうか」と亭主(茶席の主催者)に尋ね、亭主の目を点にさせてしまう子どもができあがるのです。
私は腰が悪く、長時間の正座にドクターストップがかかっていたので、致し方なく尋ねたのでしたが。
今も当時の茶道の先生に申し訳なく思っています。

その後30年たって、腰や膝の悪い高齢者や車椅子の人にも楽しめる「立礼(りゅうれい・椅子に座る茶道)」が、茶道の各流派で盛んに行われるようになり、「開いた茶道」が一般的になってきました。
よいことだと思います。

「北河内の茶室」は博物館の一番奥、竹垣の向こうに建っています。
散策用の整備された道から、さらに小道を登って、ようやく茶室に着きました。
四畳半一間の茶室と三畳の水屋と物入れだけの「数寄屋造り」と呼ばれる茶事専用に造られた贅沢な建物。

それにしても、茶室の「正門」にあたる「にじり口」はどこだろう?
数寄屋造りの本格的な茶室なら、どこかにそれがあるはずです。

縁側にも「沓脱ぎ石」が置いてあって、そこから靴を脱いで座敷に上がれますが、正式な日本家屋では縁側は「窓」にあたる部分だから、「窓から入る」のはどうかと思い、「お勝手口」にあたる「水屋」で、お菓子の準備をしている和装の女性に尋ねました。

「すみません。にじり口はどこですか?」
「にじり口から入られるのですか?」

妙な反応でしたが、「にじり口」の場所を教えてもらって歩き出しました。
水屋では「にじり口から入ってくる人がいるのよ」「まあ。本当に?」と盛り上がっているようでしたが、「正門」から入るのが、そんなに珍しいのかな。
確かに縁側にも小道が続いていて、沓脱ぎ石があるから、縁側から直接座敷に上がる人の方が多いかもしれないけれども。

「にじり口」から茶室をのぞくと、中にいるのは4人。
着物を上品に着こなした亭主と半頭(亭主の補佐をして菓子やお茶を運ぶ人)の女性。
そしてカジュアルな服の主婦とおぼしき二人連れの女性。

「すみません。にじり口から入っていいですか?」
「あら。にじり口から入られるとは。本格的ね」

なぜかうれしそうな亭主と半頭。

戦国時代から茶室にあった「にじり口」は、客が背をかがめて、にじるようにして入るため、そう呼ばれています。高さ二尺二寸(約67cm)、幅二尺一寸(約64cm)の小さな入り口。
実際にくぐってみると、やっぱり狭い。
この大きさでは、刀を差したまま入ることができません。
「戦国武将が茶の湯を好んだのは茶室が安全だったから」というのは、本当かもしれない。

茶道では、畳の上では両手の拳を畳につけて、すこし膝を浮かせる「にじる」という動作を繰り返して前進しますが。

「にじり口」から中に入って、「では、床の間のお軸に礼をなさってください」と言われて、うっかり「膝行(しっこう・両手を使わず正座したまま前進する動作)」で、床の間の前まで進んでしまいました。
しまった!
あわてて「膝行」で反転し、亭主に「ご無礼をお許しください」と深々と座礼しましたが、亭主と半頭の反応は意外なものでした。

「膝行が自在にできる人を初めて見ましたね」
「しかも、体が柔らかくて。座礼の仕方も見たことのない動きですが、まとまりのある洗練されたものだと思います」

よくわからないけれども、なにやら感心されているらしい。

「にじり口から入ってきたことといい、その体の柔らかさと洗練された動きといい、あなたは一体何をされている方ですか?」

……次回に続く……
タグ:合気道 茶道
posted by ゆか at 23:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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