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2016年06月12日

マスキングテープとデザイン

ちょっと変わったイベントに行ってきました。



「グッドデザイン賞2次審査体験ワークショップ」。
主催者は公益財団法人日本デザイン振興会事務局。
会場は北摂叢書プロデュースの『服部本町帖』でお世話になったクリエイター支援施設、公益財団法人大阪市都市型産業振興センター「メビック扇町」。

グッドデザイン賞は書類選考の1次審査と、審査委員が現物を実際に見る2次審査があります。
今回は、まったく同じ方法で、参加者がグッドデザイン賞の応募対象を2次審査をしてみるという珍しい催し。

「なぜ、物書きがデザインのイベントに参加してるんだ」と疑問を抱く方もおられるでしょうが。ここは一つ「グッドデザイン賞のファン」ということで勘弁してください。

参加者は15名。
3つのグループに分かれて着席し、肩書きを抜きにして、話し合いやすいように名前だけ名乗ります。
私のいるグループは男性3人、女性2人。

まず、「グッドデザイン賞の条件」を3分以内に箇条書きで付箋に書いて発表。
「機能的であること」「美しいこと」「エコロジー」「バリアフリー」「安全」「革新的」……さまざまな意見が出ていましたが、全員が「美しいこと」を条件にあげていたのが興味深かったですね。

「では、グッドデザイン賞の現品審査をしていただきます。審査対象を客観的に見て、判断した理由を具体的に説明し、総合判定で○か×か評価してください。制限時間は5分です」

最初に渡されたのはマスキングテープ「mt」。
私の苦手な蛍光オレンジに金のストライプが入った柄。

でも「嫌いな色だから」という主観的な理由で「×」としてはいけないのです。

ここで私のグループは、いきなりマスキングテープをちぎって紙に貼る人と、丹念に解説を読んで、慎重にマスキングテープにボールペンで書き込みする人に分かれました。
ちなみに私は解説を読まずにちぎった人です。

「切り口が探しにくいな」
「どんな画材にも描けると説明がありますが、水性ペンでは描きにくい」
「和紙に近い素材としては、ちぎりやすい」
「子どもが自由に切り貼りできるか、高齢者がちぎりやすいかで考えたら、70点ぐらいですか。もう少し素材に工夫があれば」

意見が分かれて判定が難しい。
会場のあちらこちらで、同じ質問の声が上がります。

「△をつけてはいけないのでしょうか?」
「ダメです。○か×かどちらかで決めてください」

みんなで意見を出し合ってグループごとに判定を発表。
グループごとに○か×で分かれた場合は多数決。
総合判定「×」。
2008年受賞対象に厳しい評価が下りました。

続いて2015年のグッドデザイン賞100選「無印良品 ステンレス・ボール、ステンレス・メッシュザル」

ボウルをコンコン叩いて「この厚みなら大丈夫か」と納得するプロダクトデザイナーの男性。

「安定性はいいけど……美しいかと言われると「平凡」なデザイン」
「ボウルの内側に目盛りがついてるから、料理はしやすいですよ」
「……うーん。入れ子になる機能はいいんだけど、斬新なアイデアでもないし」
「スタッキングできるにしても、もっと洗練されたデザインができなかったのかな」

「特によいところも悪いところがない」という消極的な理由で「○」になりました。

2つ目は2013年グッドデザイン賞受賞の「タタメットBCP」。

「「固定ベルトをはずし、左右のスポンジ部分を内側に押し込むとヘルメットになる」と、解説にあるけど、かなり力がいりますね。大人でも使うのにコツがいる」
「A4ファイルの大きさからヘルメットが組み立てる発想はいいんだけど、金具が硬い」
「学校とか公共施設には便利ですが、災害時に、子どもや高齢者が、とっさに使って避難するために普段から訓練が必要ですね。カリキュラムとワンセットで、メーカーが時々訪問するようなフォローがいるでしょう」
「ヘルメット本体にデザイン的な矢印をつけて、子どもでも組み立てられるようにする」

ひとしきり「私ならここを改良する」という話になりました。

集まったのはデザイナーばかりだから、つい「今よりよいものを作りたい」と考えてしまう。
同じデザイナーでも、プロダクトデザイナーとグラフィックデザイナーとでは、視点がまったく違うし、私が「子どもと高齢者が使いやすいか」ばかり気になるのは、たぶん介護と子ども向け絵本イベントをしているからですね。
それぞれの経験が視点を決める。
そういうものかもしれませんね。

総合判定は「周知面と素材に改良の余地ありで×」。

最後が、飛んでいる最中にLEDで数が空中に浮き上がる縄跳び「スマートループ」。
事務局の方が跳んで実演してくださいましたが、本当に赤い数字が空中に現れたのには驚きました。

「かなりの回数跳ばなきゃ表示されないのか。しんどいね。これは」
「記録を共有する専用アプリは面白いけど、使い勝手は、どうなんでしょう」
「持ち手は、このワンサイズですか? 子どもが持つには重くて太すぎるかも」
「グリップなんかつけるといいんじゃないか」

……またしても「私ならここを改良する」という話になってしまい、2015年グッドデザイン賞金賞に対して「改善点多数。大変惜しいが×」の結論。
情け容赦ない審査員たち。

グッドデザイン賞の審査では「改善点多数」を「今後改良されるであろう」と考えて「○」をつけるそうです。
いいなあ。加点主義なんだ。

実際の審査では、一人の審査委員が300点以上の現品審査を行い、1点あたり5分程度で判定するとのこと。
さすがにグッドデザイン賞の審査委員はすごい。
判定が一瞬の印象で決まるのなら、審査を通すには、審査員の視覚と聴覚と触覚に訴えかけるのが効果的かもしれません。

それにしても、「○か×か」と聞かれているのに、改善提案ばかり出る……変な審査会になってしまいましたが。
各分野のデザイナーが、それぞれに積み上げた経験から有意義な提案を数多く出しているので、これを受賞したメーカーにフィードバックすれば、よりよいものができるでしょう。
楽しかったし、ただの審査会イベントで終わるには、もったいない。
このイベントそのものも「今後の改善に期待する」という判定になりますか。

最近はグッドデザイン賞に似たものとして、キュレーションサイトが増えていますが。……

「美しいもの」「優れたもの」を「花」に例えると、キュレーションサイトが「つぼみや花を集めて並べる花屋」で、グッドデザイン賞は「どんな花が咲くかまだわからない、土の中から出てきた「可能性の種」に水を与える園芸家」だと思います。
もちろん園芸家の存在なくしては、花屋は成り立たない。

美しいもの、優れたものがたくさんあって、人々が自由に選べる……そんな社会がよいと、私は思うので、今後もグッドデザイン賞の役割は大切だと思います。

記念にもらったマスキングテープは、今も机の上にあって、時々、人差し指にはめてクルクル回して遊んでいます。
また機会があれば参加したいですね。
ラベル:デザイン
posted by ゆか at 09:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 文具コラム | 更新情報をチェックする
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