『来月の予約もあることだし、ちょっとお話しませんか?』
キャリアカウンセラーからのメール。
私の担当は簿記講師で税理士先生。
先月の面談では、かなり叱られたので、おそるおそる学校へ。
「前回は、きつい日程を組んだので、挫折するんじゃないかと思ってましたが、全部出席ですか。……順調ですね」
意外にも先生はにこにこしていました。
「順調? とんでもない。前回試験と答案練習講座の問題で何を間違ったか分析して、Excelで簡単な表を作って書き込んで、付箋に転記してテキストに貼ったところですが。よくもここまで理解してない状態で受験しましたね。自分でも驚きました」
私は一覧表を机に広げました。
「……確かに。この理解度で、合格点まであと2点なんだから、強運というほかないですね」
先生は呆れていました。
「よくいるんですよ。模試は完璧なのに落ちる生徒さんとか、一夜漬けで合格する生徒さんとか。でも、運が強いのはいいことですよ」
「ありがとうございます。あと、テキストの計算式を自分の電卓の機能に対応させるために、まとめノートも作り始めました。実技試験が40問、制限時間90分。どうしても平均で1題あたり1分半かかるんですが。この状態では全部の問題を検算できないんです」
「まとめノートは正解ですね。簿記でもそうですが、電卓は機種によって操作が違いますからね。いかに自分の電卓を使い慣れるかは合格ポイントの一つでしょう」
「どんどんやらなきゃいけないことが増えて困ってます。あせるばかりで」
「いや。順調です。この1か月で前回の反省と分析をしてもらって、具体的な対策に取り組んでもらう。それが目標だったので、うまくいってますよ」
先生は急に声をひそめました。
「この前はきつめに言いましたが、実は僕も……準備から集中力を高めて、そのまま数時間集中力が続くスロースターター型なんで、気持ちはよくわかります。同じランナーでも、短距離走と長距離走では、必要とされる資質や集中力は全然違う種類のものじゃないですか。30分や1時間で集中力が切れるような人では、帳簿入力はきついでしょう」
確かに短距離走型の集中力の持ち主は、人に接する仕事には向いていても、プログラミングしたり、物を作ったり、修理したり、手術したりするのには向いてなさそうです。
「実は、夫が再就職する時に、夫婦で豊中市の就労サポートを受けたのですが、そのプログラムの一つに家計診断があったんです。担当者は「私はファイナンシャルプランナーじゃないので、提案はできませんが」と前置きして、FPが使うキャッシュフロー計算ツールで、必要な月収を計算してくれました。そのおかげで夫は適正な収入の就職先を見つけることができたんです。……私はFPとは、そんな出会い方をしました」
この時、担当者は私の家計予算表を見て、「家計簿というより損益計算書と貸借対照表ですね。……うちよりまともだ」と絶句しました。
「介護保険や高額療養費でカバーできない義母の介護費用をどうするか」で頭がいっぱいだった私は、「自分の家計が、よそと比べてどうなのか」を考えたことがありませんでした。
「家計の改善を提案できるFPとは何者だろう。FPの技術があったら、家計を完全にコントロールできるんじゃないか、と考えました。夫も「早くFP取れ」とうるさいですし」
しばらくの沈黙の後、突然先生は手を打ちました。
「よし!これからは、もっと厳しくやりましょう!」
「とんでもない! 今だって十分厳しいじゃないですか!」
「いやいや。これは絶対、FPとってもらわないと……いやあ。いい話を聞きましたよ」
先生は大きくうなずきました。
「お話を聞いてて、僕も嫁さんにFP取らそうと思いました。奥さんがFP持ってて家計を完璧にコントロールできるんだったら、旦那さんは安心して働けるじゃないですか。ご主人の気持ちもよくわかります」
……そんなものなのかなあ。
「ということで、僕がご主人になりかわり、学校では顔を見るたびに厳しく言います」
「なっ、なりかわらなくてもいいですっ! 家と学校両方で言われたらしんどいですよ」
「いや。そこまでやらないとダメでしょう。ありとあらゆる手段を使って合格してください」
「……そうですか。ありとあらゆる手段を使ってもいいわけですね。では、やはり10月に制度改正されたライフプランニング(社会保険)分野を重点的に……」
「あ、「山を張る」と「強運に頼る」は禁止。それ以外の「ありとあらゆる手段」です」
「それは困ります。得意技を封じられたら合格できないじゃないですか」
「いやいや。おそらく直前には無意識に得意技を使いますよ。だから大丈夫。ここでは苦手分野を全部つぶして、きちんと勉強してもらいたいんですよ。ただ資格を取るだけじゃなくて、実務で使っていくんですから」
「正直、あと2か月たらずで間に合うのか心配です。あまりにもやることが多すぎて」
「心配とか言ってないで、やるんです! やるべきことが決まってるんだから、四の五の言わずにやる! 学校にいる間に、そういう習慣もつけてほしいんですよ」
「……わかりました。やれるだけのことはやってみます」
先生は笑っていました。
「FPを取る暇あったら1円でも稼ぐ方が得」とも言われますが、私にとってFPは「未来と財務的に戦う技術」なので、どうしても必要なのです。
自分の家計の状況を冷静に分析して、適切な方法をとれば、不安にかられて体を壊すような無理な節約をしたり、休みの日にまでアルバイトをしなくてもすみます。
まずは社会制度をうまく活用して、ストレスなく家計費を抑えて、足りない分だけ稼げばいい。
1年で13%を目標としている家計費削減のうち、とりあえず3%の削減には成功しましたが、これからもマイペースでやっていくつもりです。
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2016年11月28日
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