「なんや、ごつい鉢植え買うてきて何すんねん」
3年前、大きな鉢を2つベランダ置いた私に、そう夫は尋ねました。
「オリーブと南天。ベランダが殺風景やから、植物育ててみようと思って」
旧約聖書やギリシア神話に登場する橄欖(オリーブ)の花言葉は「平和」「知恵」。
流線型の美しい葉の表は濃い緑で裏は銀色。
節くれだった枝を彩る緑の葉が風に揺れて、時折銀色に輝くさまが美しくて、昔から憧れていました。
一方、南天(ナンテン)の花言葉は「私の愛は増すばかり」「良い家庭」。
すうっと放射状に広がる枝に、均整のとれた緑の葉と、ぽろぽろした赤い実とのコントラストがきれい。
「オリーブはピクルスにして食えるけど、南天は食えるんか?」
「煎じると喘息に効くらしいけど」
「どうせ植えるんやったら、柿とか栗とか蜜柑とか、ちゃんと食えるやつ植えんかい」
確かに「晴耕雨読の老後」が二人の夢ですが。
柿や栗はベランダに置ける大きさの苗じゃないし、「食べられるものしか植えない」となれば、完全に「農業」の領域になってしまう。
ガーデニングに生産効率を求めるのはしんどいなあ。
……と思っているうちに、南天に異変が。
花は咲いたけど、実が全然つかず、緑の葉が縮れて散りはじめてきました。
ネットで調べると、原因は夏の暑さと根詰まり。
ベランダは日当たりがよすぎて、このままだと枯れてしまう。
そうだ。マンションの管理人に相談してみよう。
マンションが建って以来17年、ずっと管理人の仕事をしてきた彼女は、園芸の専門家です。
「すみません。玄関の花壇に生えてる南天の横に、うちの南天を植えることはできないでしょうか」
「それ、自分で育てた苗でしょう? いいんかね」
ベランダから鉢を運んできて、管理人に見せました。
「えっ! こんなに大きいの? 1メートル半はあるやん。もったいない。花屋で買ったら5000円するやんか」
「根づまり起こしてて限界なんですよ。このまま私が持ってても枯らしてしまうだけで」
管理人は鉢を廊下に置いて、じっくりとながめました。
「この鉢の大きさに、6本の苗木植えとったら、これ以上は無理やね」
「よく知らないで、寄せ植えした状態で買って、そのまま置いてたから、南天には申し訳なかったですよ。うちに置いていても枯れてしまうから、いっそマンションの玄関に」
「いいよ。玄関の南天の横に植えたげるよ。……悪いわねえ。結構な値段するのに」
自分の家に苗をもらったかのように大喜びする管理人。
うーん。取得価格1000円。
損金算入できない譲渡損5000円か。
あいかわらずFP的発想から抜けきれない私。
ちなみに、今勉強しているファイナンシャルプランニングは「晴耕雨読のために、具体的にいくらかかるか」を算出する技術ですが、苦戦中です。
しばらくして「植え替えたよ。見て」と、管理人が呼びに来ました。
元々マンションの玄関にあった南天は、ひょろひょろと生えた細い枝。
ぎっしりと広がる青々とした葉と、葡萄の房のように重たげな赤い実。
その隣に植えられた我が家の南天は、やたらに幹ばかり太くて、枝の先端だけにショボショボと葉がついてる状態。
実は全然ついてない。
対照的です。
「もう少し植え替えが遅かったら手遅れやったね。今年は雨が多かったから、花粉が飛ばずに実がつかんかったんやろ。ここは玄関の屋根が出てる分、雨が当たりにくいから、来年は実がつくよ。今生えてる南天と一緒に、玄関の正月飾りに使うわ」
「楽しみですね。南天に比べると……ベランダのオリーブは大変なことになってますよ」
「どんな感じなん?」
「買った時は3000円だったのが、今では15000円相当に」
「?」
「サイズでいうと、買った時に高さ60センチ、幅50センチだったものが、3年で高さ1.5メートル、幅1.2メートルに。「育つ」というより「はびこる」みたいな生え方です」
「それはあかんわ。そろそろ剪定せんと枝が固くなって手に負えなくなるよ」
「ベランダは暑すぎて、オリーブは育つけど、南天はダメな場所ですよ。たぶん」
「わかるわあ。うちの庭でも南天は勝手に生えるけど、オリーブの苗植えても、どうしても育たんのよ」
不思議なことに、植物は、どんなに温度や日当たりに気をつけて、丹精込めて育てても、育たない時は育たないんです。
空間との相性のようなものがあるのかもしれません。
そういえば、南天と同じように、オリーブも花が咲いたけど、実がならなかったな。
調べてみると、オリーブは「自家不和合性」がある植物。
自分の花粉では受精が困難で、そばに別の品種のオリーブの苗を植えなければいけない。
「適当に水をやって、外に放置してるだけ。手間がかからなくて楽」と思ってたら、意外に面倒な植物なのでした。
そこで縦に伸びる「ルッカ」の苗を購入。
サンゴのように大きく広がった「ネバディロ・ブランコ」の隣に、控えめにたたずむ濃い緑の「ルッカ」。
「それで、これ、いつ食えるねん?」
「実がなるのは、早くて3年後だと思う」
「気の長い話やのう」
夫は呆れていましたが、「晴耕雨読」は一朝一夕には成り立たないのです。
同じ時期に植えられた南天と橄欖。
私がいなくなった後も、南天は仲間と一緒に毎年実をつけ、正月の縁起物としてマンションの玄関に飾られる。
一対になった橄欖は、これからは夏に花を咲かせ、秋には実が食卓に出る。
たぶん、私がいなくなった後は、しかるべき者に引き取られて、その家庭を楽しませるのでしょう。
それでいいのかもしれません。
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2016年12月18日
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