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2017年12月29日

続・南天と橄欖

「これが例のオリーブ?」

マンションの中庭に置かれた茶色の植木鉢。
高さ120cm、幹の太さ5cmのオリーブの樹。
幹が左に傾いていて、よじれたように葉がまばらについています。

マンションの管理人さんはオリーブの葉を触っていました。

「うーん。今は冬やからましやけど、夏はそうとう虫にやられとるねえ」
「鉢に生えてるのも雑草だし」
「えらいもんをもらってきたねえ。鉢が小さくて根詰まり起こしてるよ。助かるかなあ」

実は先日、母が急性心不全で亡くなりました。
母が突然亡くなって、最初に困ったのが母の鉢植えの処分、家1軒ぐるりと取り囲む140個ほどのプランターや植木鉢があるのです。

母は園芸が趣味で、豊中市の「バラ展」で金賞をとった腕前。
母の作る花壇は、園芸マニアには垂涎の的でした。

母は園芸が得意なのに、なぜか妹や父や私は園芸が苦手で、管理の方法がわかりません。
主を失った140鉢の植物が、みるみる色あせてしおれていくのをみるのはつらい。
そこへ、鉢植えをほしいという人が続々と現れました。あわてて私は自分が唯一育てられるオリーブの樹を確保。
しかし、その状態がひどい。幹が傾いているし、樹のてっぺんにショボショボとついている黄色の葉は虫食い穴だらけ。鉢の中は雑草だらけ。
園芸好きの鉢植えじゃないなあ。
それにしても、この幹ばかり太いオリーブ、正体は何だろう。タグに「オリーブ」と書かれているだけで、種類はわからない。
ベランダではびこっているオリーブは、細かく枝分かれして横に広がる「ネバディロブロンコ」と、枝が一直線に伸びる「リッカ」の2種類ですが、そのどちらとも違う。
「これ、きちんと一本仕立てにしてある。何年もかけて丁寧に育ててられたようだけど、最後の方、お母さんはしんどかったんじゃないかな」
よく考えてみれば、我が家のベランダで「育つ」というより「はびこる」に近いオリーブの樹は、3年でも幹の太さが1cm。もらってきたオリーブの幹の直径は5cm。
かなりの年月をかけて、剪定と植え替えを繰り返して大きく育てていったものらしい。
「でも、最後の植え替えの時に幹を斜めに植えてしまった。鉢に雑草生えてるし、幹をまっすぐに植え替えたくても、しんどくてできんかったんやろね。悔しかったと思うわ」
管理人は残念そうに言いました。
「この樹の様子やったら、1年半前ぐらいから調子悪かったやろね」
その通りです。1年半前は母の血圧が不安定で薬を使い始めたころ
「根詰まり起こしてるし、このままやったら枯れるよ」
「大きい鉢に移したら、なんとかなりますか?」
「大丈夫やよ。ちょうど冬場の植え替えのシーズンだし。もう一回り大きな鉢買ってきておいて。正月明けに植え替えてあげるよ」
管理人さんの好意で、正月明けにオリーブの消毒と植え替えをすることになりました。
管理人さんと別れ、通路を歩いていると、玄関に植えられている南天が目に入りました。
枝ぶりが好きで買ってみたものの、「南天なんかやめなさい。あれは馬鹿でかくなるよ」と叱られ、ベランダの日当たりがよすぎて南天が枯れてくると「南天みたいな誰でもできるもん、なんで失敗するかね」と呆れられました。

枯れそうになっていた南天の苗は、マンションの玄関に植えられ、元気に育っています。
植物は水と肥料を適当に与えると生える……そんなわけないです。

廊下を歩いている最中でも思い出すのは母のこと。
常々母は「私は介護施設や病院で苦しんで死にたくない。この家で、心臓麻痺でぽっくり逝きたい」と言っていたので、理想の最期だったかもしれません。……それはそうかもしれないけど……

私が母と会ったのは、亡くなる1週間前。
母はリフォームした台所と洗面所、玄関を得意そうに見せてくれました。

「ええやろ。この台所。大好きなライムグリーンにしたんや。食洗器がビルトインやねんで」
「タカラかあ。なかなかいいね。次にうちが台所リフォームする時にタカラで考えてみよう」

母は曖昧に笑いました。

「そうやなあ……まあ、リフォームもできたことやし、何も思い残すことないわ」
「何を不吉なことを。まだ75やんか。もっと長生きしてもらわんと」
「心臓の異常音がみつかったし……検査の予約したよ」
「何事もないといいね」

帰る時に母は玄関まで送ってくれました。

「寒いし、体に悪いからいいのに」
「気をつけてな」

玄関にたたずむ母の姿が、妙に小さく儚く見えた……それが、私が見た母の最期の姿でした。
そして、妹からの突然の電話で母の死を知らされるのです。

……こんなことになるなんて。

自宅のベランダで、冬に似つかわしくない強い日差しの中、風に吹かれて翻る銀色の葉。

……私が死んだら、この2本のオリーブは母に譲るつもりだったのに。逆に母からオリーブを譲られるなんて。

でも、せっかく預かったものだから、ちゃんと再生させて、実をつけるほど健康な樹に育てたい。
正月明けにベランダに3本のオリーブが並びます。
それぞれが違った葉の色や形、枝ぶり。
どこまで私はきちんと育てられるのか……やれるだけはやってみます。
ラベル:南天
posted by ゆか at 04:19| Comment(0) | 日常コラム | 更新情報をチェックする
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