きっかけは姫路で開かれた日本古武道演武大会の時。佐分利流槍術の武人に「演武しますので見に来ませんか」と誘われたこと。
それから毎年、日本武道館から招待状をいただくので出かけます。
毎年、知り合いの武人のどなたかが演武しますが、今年は鹿島の武人(鹿島新當流剣術)が演武するので楽しみ。
さて、13時46分になりました。休憩が終わり、後半の演武がはじまります。
テレビや時代小説で有名な柳生新陰流兵法剣術(やぎゅうしんかげりゅうへいほうけんじゅつ)。
切っ先のない赤い棒状の武器「袋竹刀」での激しい打ち合い稽古から、宗家の流麗な剣さばきまで、尾張柳生の粋を見ることができました。
昔の武士の装束、裃に刀を帯びた姿のままで、斬りかかってきた敵を組み伏せる長谷川流和術(はせがわりゅうやわらじゅつ)。
隊列を組んで登場した尾張貫流槍術(おわりかんりゅうそうじゅつ)は、幕末の剣術道場を彷彿させる厳しい稽古風景を、神道夢想流杖術(しんどうむそうちゅうじょうじゅつ)は、二刀流で杖を制する妙技を披露。各流派、工夫しています。
それにしても、シャッター音がやかましい。
撮りやすい位置なので、観覧席はカメラを持った人だらけですが、そのタイミングのずれたシャッター音から察すると、多くの撮影者が演武の見せ場を撮りそこない、見せ場でないところで撮影してしまっているようです。
実は古武道演武大会の撮影は難しい。
プロレスのリングや相撲の土俵のように、演武する面積が制限されていないので、広い演武場を縦横無尽に使い、飛んだり跳ねたり、走り寄ったり斬りつけたり、投げ飛ばしたり武器を振り回したりするわけですから、「三脚立てて動画モードにしてりゃいい」というものではありません。
私も「いきなり飛び上がられて足だけしか映ってない」とか「動きが速すぎてピンボケ」なんかの失敗は多々あります。
演武は続いています。
作務衣に似た装束で現れた鐘捲流抜刀術(かねまきりゅうばっとうじゅつ)は、突きに気合いを集中できる独特な足さばきを見せます。
合気道の源流、大東流合気柔術琢磨会(だいとうりゅうあいきじゅうじゅつたくまかい)。
来賓の合気道の道主、植芝守央先生が見守る中、演武がはじまりました。
大東流の演武は「華麗なる膝行(しっこう:正座のまま移動する江戸時代以前の動作)」のイメージが強いのですが、今年は立ち技主体。
合気道を思わせる投げ技や固め技、そして合気柔術にあって合気道にない「合気」を使った技で、さりげなく合気道の直系の武術であることと、合気道との違いを主張します。
刀の切っ先を下に向ける型が印象的な初實剣理方一流剣術(しょじつけんりかたいちりゅうけんじゅつ)。
年配の女性演武者が気合い一つで相手を制する直心影流薙刀術(じきしんかげりゅうなぎなたじゅつ)。
それにしても撮影が忙しい。
シャッターボタンを押して実際にシャッターがおりるまでの時間が0.03秒。
それを逆算して一番の見せ場の手前でシャッターを切る。
それでも失敗することがありますが、ようやくコツは飲み込めてきた。
ここで、剣豪・塚原卜伝で名高い鹿島新當流剣術(かしましんとうりゅうけんじゅつ)。
鹿島の武人登場。
演武者は鉢巻たすき掛け腕まくりのいでたちで、木刀も太いけれども鍛え上げた腕も太い。
腰を落とす独特な構えからはじまる剛直な組太刀、迫力ある演武に圧倒されました。
ちなみに、写真の撮り方は、まず俯瞰して全体を1枚。
それから演武者のクローズアップ。
演武者が二人一組でいる場合は、必ず技をかける方と技を仕掛けられる方、役割が決まっています。
どの人を撮るか決めると撮りやすい。
はじめに若い人が豪快に演武して、宗家が極意を見せて締めくくる流れが多いです。
相手の両足を抱え上げて投げ落とす、豪快な柳生心眼流體術(やぎゅうしんがんりゅうたいじゅつ)。
まず年配者が演武し、続いて若者が演武し「技の伝承」をアピールする神道無念流剣術(しんどうむねんりゅうけんじゅつ)。
女性が護身術的に使う技が印象に残った和道流柔術拳法(わどうりゅうじゅう)。
荒木流軍用小具足(あらきりゅうぐんようこぐそく)の槍の鋭い突き。
一口に「槍」といっても、槍は突くだけでなく、斬る、薙ぎ払う、打つなど、さまざまな技法があり、どこに重きをおくかは流派によって違います。
合気道にも影響を与えた天神真楊流柔術(てんじんしんようりゅうじゅうじゅつ)は、合気道の源流・大東流合気柔術とは対照的に、座り技での投げや固めの技を披露。
出場流派間で、何か事前に打ち合わせしているかのように、不思議と技が重ならないのです。
若い演武者が巨大な鍛錬棒を振り回す鹿島神傳直心影流(かしましんでんじきしんかげりゅうけんじゅつ)。
演武大会プログラムによると、鍛錬棒の稽古は毎日100回から500回。
「ヤーイ」と聞こえる長い気合いが演武場に響き渡ります。
室町時代発祥、千葉県無形文化財の立身流兵法(たつみりゅうへいほう)は、近寄りざまに抜き打ちで相手に斬りつける鋭い動き。
次の宗家と思しき若い演武者が鮮やかに無刀取りをみせました。
演武納めは森重流砲術(もりしげりゅうほうじゅつ)。
スタッフがマットとモップと消火器を準備し、「小さなお子さんは耳をふさいであげてください」とアナウンスがあります。
ここでは本物の火薬が使われるので、非常に危険な演武。
観衆が固唾を飲む中、まず、貴人の前で行う礼射。
耳をつんざく轟音と火花、もうもうと立ちのぼる煙。
最後はたすき掛け姿の演武者が並んで、的に向かっての一斉射撃。拍手が起こります。
この演武納めで無事に演武大会終了。
調子に乗って撮った写真は600枚。整理が大変です。
今年の演武の傾向は、単に演武を披露するだけではなく、その演武にメッセージが込められていること。
そして「世代交代」。
若い人の活躍が目立ちました。
毎年、違う流派が出て、演武の見せ方も組み立て方も違う。
来年の演武大会も楽しみです。
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