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2018年07月31日

茶人の疑問(後編)昔と今

「盆点前」とは、お茶筅と茶碗、茶巾をお盆にセットして、自分で自分のお茶を点てる簡略なお点前のこと。



私は自宅で気軽に茶を点てる「盆点前」が、きちんとできることが目標です。。

黒塗りの盆にのって出てきたのは、円錐形を逆さにしたような形の茶碗。
青楓の模様が入った夏らしいガラス製の茶碗ですが……

「もしかして、これは点てにくい形の茶碗なのでは?」
「ほほほ。それがわかっただけでも、成長してるわね」
「そこをどこまでうまく点てられるか」
「失敗しても自己責任だから、がんばって」

茶筅をいつも通りに縦に振りながら、懸命に茶を泡立てようとするのですが、いつも家で使っているお椀型の茶碗とは違い、ものすごく点てにくい。
ほとんど泡立たなかったお抹茶をいただいたけれども、ものすごく苦かった。
盆点前失敗。

「手首のスナップは効いてるってことは、普段から点てているのね。ちょっと安心したわ」
「でも、その茶筅の置き方は失敗」
「まあ、ちょくちょく、ここに来てやりなおしたらいいから」
「……すみません」

三人の先生方がひとしきり笑った後、釜の前におられる先生は真面目な顔で言いました。

「ところで、さっきの話だけど、どうして合気道の稽古に行かないの?」
「ブランクがあって、体力と反射神経に自信がなくて。前は右膝が曲がらなかったので、正座もできなかったけど。ようやくまともになってきました」
「膝がよくないのに、投げ飛ばされたりするの?」

床の間の前の先生は心配そうな面持ち。

「もちろんそうです。私は初段だから、手加減なしでしょうが、反射神経が鈍ってるから、ちゃんと受け身が取れるかどうか……学生時代に合気道をやっていて、就職して子育てが終わって稽古に来る人もいるんですが。有段者でも白帯で袴なし、つまり初心者の身なりで参加する気持ちがわかりますよ。袴をはいていたら遠慮なく技を極められてケガをするかもしれないから」

「手加減して投げてもらうわけにいかないの?」
「袴をはいている、つまり、有段者は乱暴に投げられてもかまわないことになってるんです。でも、元有段者って、動きでわかるから、先生に「次回から袴はいてきなさい」と叱られたりしています。……その後、あんまり稽古に来なくなってしまうけど」
「まあ」
「ブランクがあるのに。危ないじゃないの」
「ケガをしたらどうするのよ」

先生方は顔を見合わせました。

元々武道は危ないものですし、武道ではケガをすることを「不覚を取る(自分のミス)」ととらえることが多いのです。

釜に向かう先生は茶巾を畳みながら言われました。

「例えば、柔軟運動をして、しんどくなったら、今日はそこで終わるとかできないの?」
「見学に回ったら「もっと稽古しないのか」と言われましたよ。武道は「今の自分を乗り越えろ」という思想が強いですから。自分でも「もっとやれるはず」と思ってるんですが」

水屋の入り口におられた先生は、お盆を下げながら言いました。

「でも、70過ぎて思うけど、体力って、いつまでも昔のままじゃないのよねえ」
「そうそう、最近つくづく私も思うわ」
「気だけは若くって。「これまでできたんだから、今もできるはず」とか思うのよ」

床の間の前におられる先生も、茶碗を片付けている水屋の先生もうなずきました。

「昔はやれてたのに」「今でもやれるはず」……その気持ちはよくわかります。
「若い頃と違って、筋肉も落ちてるし、反射神経も鈍くなってるんだから、無理しないこと。私は今もジムに行ってるけど、軽くスクワットしたぐらいで終わることもあるから」
「スクワット!」

驚く私と他の先生方に、釜に向かう先生はにこやかに言われました。

「簡単に運動して、友達とお風呂入ったり、お茶飲んだりして……おしゃべりが目的かもね」

70歳を過ぎてスクワット。ちょっと私は自分を甘やかしていたかもしれない。

「合気道の稽古に行っても、無理だったら「無理です」って、ちゃんと言うのよ」
「そうよ。無理なものは無理なんだから。そうしないと続けられないでしょう」
「がんばってね」

……いつの間にか、合気道の稽古をする話になってしまった。
もう少し、涼しくなったら見学に出かけてみましょうか。
「今日は柔軟体操だけ」とか「今日は受け身まで」とか「今日は素振りだけ」とか、段階的に復帰できればいいんですが。

ちなみに『総務省統計局』が2018年7月20日に発表した『人口推計(平成30年(2018年)2月確定値,平成30年(2018年)7月概算値)』によると、平成30年2月1日現在(確定値)で、日本の総人口は1億2660万9000人。
そのうちの65歳以上が3529万人。
つまり人口の4分の1以上が65歳以上で、今後さらに増えるとみられています。

そろそろ、「高齢者の武道のあり方」について、各武道とも少し考えた方がいいと思います。
誰もが年をとっていくのですから。
ラベル:合気道 武道 茶道
posted by ゆか at 23:58| Comment(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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