『間接護身術入門』葛西眞彦 著 日貿出版社
著者は元刑事で台湾在住。間接護身アドバイザーで競技推手の世界大会1位の実績がある方。
「推手(推手)」は太極拳の練功方法の一つ。
日本での太極拳は「健康のための体操のようなもの」のイメージがありますが、れっきとした武術です。
『全日本競技推手連盟』によると、練功には日本の武道の「一人で行う型稽古」にあたる「套路(とうろ)」と、二人一組で行う「推手」の2種類があって、「推手」は『互い向かい合って立ち、腕で接触できるくらいのごく近い間合いから、接触を保った状態で相手の隙や重心の偏りを感覚によって探り、感覚を磨く練功です。』と書かれています。
なるほど。二人一組でやるから試合があるんですね。
それにしても、「間接護身術」というのは耳慣れない言葉ですが、これは著者の造語らしい。
定義は……
『自分に対して悪意のあるものに対して、相手が行動に出る前に察知して回避する。または相手がそのような行動に出ないように習慣的に配慮し危険な人物との縁を深くしない』
アレルギーの人の行動に例えると、サバを食べるとジンマシンが出る人が、サバの味噌煮を食べないとか、花粉症の人が外出する時にマスクをするとか……みたいなイメージで考えてもいいんでしょうか???
厳密に「実戦」というと……
相手が刃物どころかピストルを持っている可能性すらあるし、武道の心得のある人が本気で相手に技をかけると、相手は大けがをします。正当防衛どころか傷害罪で逆に訴えられるケースもあるので、実際は「逃げるが勝ち」がなんじゃないかなあ。
以前、武道系コラム『最大の敵』で、自分が実際に路上で遭遇した危険な体験について書いたことがありますが。実戦は「相手がこう斬りかかってきたら、こう反撃する」というような単純なものではありません。
この本の前半は、著者の「刑事としての経験」を交え、「護身術の現実」と「聴勁(五感を働かせて相手の力や心の動きを洞察する能力)」の大切さが書かれています。
「加害者のほとんどは顔見知り」「サスマタは意外に使うのが難しい」など、身もふたもない事件現場の情報満載。
それにしても「逃げるのが一番、いつでも走って逃げられる体力を確保しておくこと」と言われても、喘息持ちで「走れない」私としては、どうすればいいのか。
うーん。困った。
次回に続く……
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