番組の後半は「神道無念流剣術」と「天然理心流剣術」が登場。
最初は「神道無念流剣術」。
「日本古武道演武大会」でも見たことがあります。
VTRで紹介されたのは「神道無念流剣術」。
有信館の小川武館長は、75歳で現役の武術家です。
この流派を学んだのは桂小五郎・高杉晋作・渋沢栄一・伊藤博文などの「幕末の志士」たち。
精神の鍛錬を重視した流派で、そう簡単に刀を抜きませんが、一旦刀を抜いた後はすごい。
相手が、まっすぐに木刀を振り下ろすのを、真横にさばいて、相手の側面から全体重をかけて木刀を打ち落とす。
この演武は「日本古武道演武大会」でも見たような気がするなあ。
幕末の剣術「北辰一刀流剣術」「神道無念流剣術」「天然理心流剣術」の共通点は、技を体系的に整理して、それまで一部の達人のものだった武術を「みんなができるもの」にしたこと。
それを徹底しているのが「天然理心流剣術」。
近藤勇や土方歳三が学んだ剣術は、八王子近辺の農民の間に広まった剣術。
当時は、一揆や打ちこわしを鎮圧するために地元の農民が動員されていたため「ある程度戦える人材を早く育てる」必要がありました。
「剣術なのに、やたらに人を投げ飛ばす流派」……それが「日本古武道演武大会」で、「天然理心流剣術」の演武を見た第一印象でした。
この時、木刀を打ち合う柔術の流派も演武していたので、一瞬混乱しましたが、元々、剣術と柔術はワンセットで学ぶものだったので、人を投げ飛ばす剣術家がいたり、剣を振るう柔術家がいたりするのは当然なのです。
稽古風景のVTRでは、普通の木刀の倍の太さで2sもある木刀を素振りに使い、相手が「参った」というまで組み伏せる荒稽古の様子が紹介されました。
ここで、映像がスタジオに切り替わり、登場したのは、稽古着姿の天然理心流武術保存会の加藤恭司代表と、サンドロ・フルツィ師範代。
サンドロが面と胴をつけ、竹刀で加藤代表に打ちかかる。
竹刀を打ち合わせたところで、サンドロが左手で加藤代表の右手首をつかむ。
一方、加藤代表はサンドロの右手首をつかんで、投げ飛ばす。
……出た。「天然理心流剣術」の投げ技。
投げ技以外にも極め技や打撃技もあって、「剣術」というより「総合武術」の流派です。
恐ろしい。
映画『燃えよ剣』で、主人公・土方歳三役を務める岡田准一が、「理合(技の道理)」の時代による変化について、実演を交えた解説します。
岡田准一の理論では「理合は時代を経るにしたがって人間の体の外側になっていく」。
えっ、そうなのかしらん。
サンドロが受けで、岡田准一が投げ飛ばしていきます。
「合気」は、相手の力の重心をずらして「肘」を支点に投げる。
「相撲」は、相手と体の重心同士を密着させて投げる。
「柔道」は少し離れたところから力学的に投げる。
実際に投げ飛ばすところをみると、岡田理論に納得。
それにしても、サンドロを何度も投げ飛ばしているのに、息一つ切らさずに、そのまま解説を続けられる岡田准一は、やっぱりすごいな。
続いて武術家・黒田鉄山先生による「柔術の崩し」の実演。
日本空手協会総本部の中達也師範が、後ろから鉄山先生の腕をがっしりとつかみましたが……次の瞬間、鉄山先生に体勢を崩されてしまいました。
岡田准一も、鉄山先生に簡単に体勢を崩されて「よくわからない」と言いながらも楽しそうでした。
実は、昔、黒田先生のセミナーに参加したことがあるのですが、合気道とは全然違う次元の「よくわからないもの」を垣間見ました。その「異質な力」の向こう側に、何か途方もないものが広がっているのと、自分はそこに行きつくことができないことを思い知り、悲しくなったのを今も覚えています。
たとえ、この技を習得できなくても、遠くから眺めていられるだけで運がいいのかもしれません。
最後に司会の岡田准一が武術を「人間を知るための探求の道」と、うまくまとめました。
さすがは武人の間で評判の番組です。
『レギュラー番組への道 明鏡止水〜武のKAMIWAZA〜』……たった30分の武術番組でしたが、情報量が多く、「見どころ」が多い「濃い」番組。
正確には「全部が見どころ」なので、一瞬たりとも気が抜けない。
集中力を要求される番組です。
スマホやパソコン作業の合間に、ちらちらと画面を見る一般人にとっては、この番組は濃厚すぎるかもしれませんが、武術マニアにとっては、非常に勉強になる番組でした。
また機会があれば制作してください。楽しみにしていますよ。
(この記事は2021年7月29日時点の情報をもとに書かれています)
ラベル:武道
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