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2022年02月11日

令和4年の日本古武道演武大会(前編)静寂

新型コロナウィルス感染拡大防止のための「まん延防止等重点措置」のおかげで、初の「無観客・オンライン開催」となった、今年の「日本古武道演武大会」。例年なら、東京の日本武道館で見ている演武を、大阪の我が家で見るのは、妙な感じがしますが、武道13段の夫の解説つきというのは、面白いかもしれない。

それにしても、今回の演武大会開催で、日本武道館はどのぐらいの損害が出るのかな。
「日本古武道演武大会」はスポーツ庁の支援事業ですが、大きな収入になっているのが500円の入場料と、1冊500円で売られている演武各流派を紹介する分厚い「プログラム」。
無観客開催となると、それがゼロになってしまうわけです。
しかも、演武は行われるから光熱費その他の経費は、それほど変わらない。

……どうするのか。日本武道館。

今回の演武はYouTubeライブ配信。
今年のプログラムのPDFが無料なので、実際に視聴するまでに準備をしましょう。

まず、自宅のテレビをインターネット接続して、YouTubeを大画面でみられるように設定。
印刷したプログラムの目次で演武団体をチェック。

本来なら35団体出場のはずが、欠場流派が10団体。
これは厳しい。

「コロナの陽性反応者が出た」とか「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置のおかげで稽古できなかった」とか「感染するリスクがある」とか、さまざまな理由があるんでしょうが、残念なことです。
来年は参加団体がすべて揃って演武できればいいんですが。

「日本古武道演武大会」は、20分ほどの休憩をはさんで、4時間古武道の演武を見続ける集中力勝負のイベント。
25流派でも一気に見ることはしんどいと思い、3回に分けて見ることに。

「日本古武道演武大会は全部で4時間あるから、初日は開会式と5つの流派。あと、10流派ずつ。3回に分けて見るよ。平均1時間ちょっとになる」
「大東流合気柔術は出てるか?」
「うん。出てるよ」

夫は空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。やっぱり、自分の所属していた流派は気になるんですね。

「関口流柔術とか二天一流とか香取とかは出てるか?」
「出てるよ。あと、柳生新陰流とか北辰一刀流、示現流、天然理心流とかも出てる」

時代劇が好きな夫はうれしそうでした。

さて、準備が整い、「日本古武道演武大会」、オンライン開催スタート。……ところが。

「……おい。いつまで画面変わらへんのや。大丈夫か。これ」

「配信開始時刻までしばらくお待ちください」と書かれた字幕が、そのままになっています。

「飛ばすぞ。これ」

夫がリモコンで動画を早送りしてみると、16分目にようやく演武大会の会場が映りました。
誰一人観客がいない客席と、まばらな来賓席。
道着袴姿でマスクをした演武者。
これがソーシャルディスタンスに配慮した「新しい演武会の形」ですか。

「音がせえへんぞ」

夫がテレビのボリュームを上げました。
確かに何の音もしない。なんだろうな……

ここで、開会式の合図の太鼓が鳴らされ、日本武道館の職員が背広姿で太鼓を叩く姿が大写しになりました。
これはこれでかっこいいんですが。
マスクをしているせいか、ちょっとしんどそうだ。

開会の挨拶の後、国歌斉唱。
ここで「国家は斉唱しないようご協力をお願いします」という異例のアナウンス。
確かに、大声で歌うと感染が広がる恐れがあるけれども。
全員が無言で国旗を見つめて、国歌の歌声のBGMが流れている。
不思議な光景でした。

ちなみに、今年の古武道功労者表彰は「心形刀流剣術(しんぎょうとうりゅうけんじゅつ)」と「気樂流柔術(きらくりゅうじゅうじゅつ)」でした。
おめでとうございます。

開会式が終わって、いよいよ演武がはじまります。

最初が「小笠原流弓馬術(おがさわらりゅうきゅうばじゅつ)」。
流鏑馬(やぶさめ)神事なども行う鎌倉時代発祥の流派。
8人の射手が弓と矢を携えて静かに入場。

「馬じゃないんか」
「馬はひづめで床がダメになるから、持ち込まないんじゃないの」

演武は「百手式(ももてしき)」。
8人の射手が一列に並んで、順番に的に矢を射かけていきます。
さまざまな角度からカメラが演武者を映していて、矢をつがえる時の手元や、袖が矢を射る時に邪魔にならないように端折る所作など、これまで見られなかったものがアップで見られたので、「動画配信も悪くないなあ」と思いました。

「なんか、儀式っぽい演武やなあ。小笠原流は礼法の流派やからか?」
「そもそも百手式は儀式だから。「日本古武道演武大会の開催を祝う」という意味も兼ねてるんじゃないかな」
「そやけど、これ、的に当たってんのか?」

私もそれは気になっていました。
カメラは射手が矢をつがえて、放つまでの一連の動作を映していますが、あくまで焦点は射手だから、射手と的を同時に映すことができないんです。
「ポスッ」という音が聞こえてくるけれども、的に当たってるのかは定かでない。

今回のライブ配信は、複数のカメラがうまく連携して演武者の動きを追っていますが、それでも、演武のすべてを映すのは難しいんですね。

次は「諸賞流和(しょしょうりゅうやわら)」。
目つぶしや肘当てを使う東北の柔術。

「……俺、この流派の演武、初めて見るけど。おとなしいなあ」
「私が見たのは、もっと激しい動きやったと思うなあ」

全体に「動きをセーブしている」感じがした静かな演武でした。

……なんだろう。この違和感。

続く「溝口派一刀流剣術(みぞぐちはいっとうりゅうけんじゅつ)」の演武で謎が解けました。

「難しい演武してるわ。気合いは合図の一種やから、それを出さずに、間合いを合わせるのは難しいんや」

この流派は木刀を打ち合わせる演武でしたが、一切気合いを出さずに、お互いの動きや気配でタイミングを合わせて打ち合っていたのです。
少しでも間合いが狂えば大けがをする危険な演武なのに、動きそのものはさりげない。地味で玄人好みの演武でした。

と、ここで演武は中断。「清掃タイム」。
感染予防のためか、スタッフが出てきて、モップで床を清掃していきます。
演武大会中に何度か中断するのかしらん。面倒な。

清掃が終わると、「新選組の剣術」で有名な「天然理心流剣術(てんねんりしんりゅうけんじゅつ)」。
夫は無言で演武を見つめています。
この流派は剣術と柔術が一体になっているのが最大の特徴で、片手で剣を打ち合わせておいて、空いた手で相手の腕をつかんで投げ飛ばしたりするのですが。
「トォーッ!」とか「ヤーッ!」とか、遠慮なく大声を出していました。

感染のリスクを抱えて気合いを出して、実力を100%発揮できるか。
感染防止のために気合いと動きを控えるか。

「マスクをしていて、呼吸しづらいので、激しい動きの演武がやりにくい」という、今回の特殊な事情が演武の組み立てに影響を与えているらしく、演武者も大変です。

その次の「渋川一流柔術(しぶかわいちりゅうじゅうじゅつ)」は、動きの少ない技を組み合わせて、この問題をうまく解決していました。

「合気道みたいやな。この流派」

それは私も感じていました。「小手返し」や「一教裏」に似た動きが多いのです。
合気道をやっていたのは、だいぶ昔のことのように思っていたけど。意外に技の名前を覚えているものなんですね。

……次回に続く……


posted by ゆか at 23:56| Comment(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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