今年は自宅のテレビで夫と二人で見る……ちょっと変わった趣向になりました。
「お前、毎年、東京まで行って、4時間もこういうのを見てるんか」
半ば呆れながらも、夫は動画鑑賞に付き合ってくれます。
今年は、4時間半の演武大会を3分割して、自宅で1時間半ずつ見ているわけですが……
いつもの年だったら、5時起きで7時の飛行機で東京へ行き、10時前には日本武道館に到着。
そのまま16時過ぎまで「日本古武道演武大会」を見て、19時の大阪行きの飛行機で帰阪。
21時半には自宅にいる。
……それがこれまでやれていた自分が不思議です。
さて、演武大会は「本體楊心流柔術(ほんたいようじんりゅうじゅうじゅつ)」から。
関節技主体の比較的おとなしい柔術の技と、鋭い棒の動きの対比が楽しい。
今年の演武は「コロナ禍だから、いつもと違った演武で」という流派と「コロナ禍でも、普段通りの演武で」という流派に分かれていますが、この流派は前者できましたか。
続く「関口流抜刀術(せきぐちりゅういあい)」。
「静かな技やな」と夫は呟きました。鯉口を切る動作や、納刀の時の手の動きが拡大されて映るから、その点は動画の方が見やすいですね。
小太刀術の太刀さばきも鮮やかでした。
「荒木流拳法(あらきりゅうけんぽう)」は、「拳法」なのに、棒や鎖鎌、棒に分銅鎖がついた「乳切木(ちぎりき)」と呼ばれる武器を持ってきて、やる気満々。
期待にたがわず、堂々とした武器技の連続。
乳切木の鎖で相手の刀を奪う、鎖鎌の鎖を相手の首に巻きつけるなど、武器を使う側と技を受ける側が、一体となった見事な演武でした。
「大東流合気柔術(だいとうりゅうあいきじゅうじゅつ)」……合気道の源流であり、夫が学んだ古武道です。
畳の上で滑るような膝行(しっこう:正座したまま前進する動き)と、激しい居合刀の打ち合い。
4人がかりでかかってきた相手を同時に制圧する「合気の術」など、演武の組み立て方が上手です。
夫は無言で見入っていました。
ここまで演武が進んで、またしても清掃タイムになり演武中断。
「また掃除か」
うんざりした口調で夫は言いました。
いや、迅速に清掃をすませるスタッフには申し訳ないけれども、感染防止のために、演武3回に1回ぐらいの頻度で清掃タイムがあって、そのたびに演武が中断するのはしんどい。
たとえて言うなら、「CMの入ったナイター中継に慣れた人が、球場で野球を見て、攻守交代の時間に微妙にイラつく」。
そんな感じですね。
来年はコロナ禍が収まってるだろうから、今年だけの我慢。
清掃タイムの後、演武再開。
上から打ち下ろすと見せかけて、手元で杖をスライドさせて下から突く。
鋭い気合いとともに相手の刀を打ち落とし、目にもとまらぬ速さで相手を突く。
豪快に杖で打ち合う「無比無敵流杖術(むひむてきりゅうじょうじゅつ)」。
正座した状態から垂直に飛び上がって相手を斬り、激しく太い木刀を打ち合う「天真正伝香取神道流剣術(てんしんしょうでんかとりしんとうりゅうけんじゅつ)」。
「無雙直傳英信流居合術(むそうじきでんえいしんりゅういあいじゅつ)」で使われる刀は、長くて刃の幅が広い。
「この刀、長くない?」
「長いし、刃がごついわ。これを振るのは大変やで」
その長くて重い刀を使って、性別も体格も違う演武者が全員揃った動きをする。
非常にレベルの高い演武でした。
ここで最後の清掃タイム。
その後が「天神真楊流柔術(てんじんしんようりゅうじゅうじゅつ)」。
「柔道の先祖や」
「そうなんや」
柔道の創始者・嘉納治五郎先生は、「天神真楊流柔術」と「起倒流柔術(きとうりゅうじゅうじゅつ)」を学んだ後に柔道を作られたので、技が似ています。
さらに、源義経が学んだという言い伝えのある京都の剣術「鞍馬流剣術(くらまりゅうけんじゅつ)」。
「剣道の動きに近い技あるな」
「そうなんや」
いくつかの型が現在の剣道にも組み込まれています。
「ヤーッ」という独特の長い気合いとムダのない動きに魅せられました。
そして、演武のクライマックスは実物の火薬を使った砲術。
武道館の床にマットが敷き詰められ、消火器を持った武道館職員が待機。
物々しい雰囲気です。
黒田藩お留流・福岡市有形文化財の「陽流砲術(ようりゅうほうじゅつ)」が使うのは大筒。
火薬を筒に棒で詰める様子や、火縄に火をつける様子など、普段、目にすることができない角度で、しかも拡大して見せてもらえたのがよかったです。
演武のオンライン配信の利点は「演武者の見せ場を的確にとらえることができること」「手元や表情などが拡大で映せること」。
難点は「臨場感がないこと」「見る側が見たい角度を選べないこと」。
一長一短ですが、今回、カメラワークの切り替えが非常にうまかったので、違和感なく演武を楽しむことができました。
演武納めの後、閉会宣言。
……これが今一つ詰めが甘い。
鳴り響く閉会の合図の太鼓。バタバタと片付けしている光景が、しばらく映って中継が終わり。
ここまで演武の中継ができるんだったら、最後まで、きっちりと締めくくってほしかったなあ。惜しい。
演武が終わったところで、来賓席の閉会宣言だけ映して、武道館職員が閉会の合図の太鼓を叩いているシーンを映しつつ、フェードアウトするとか。
何か工夫の余地がありそうです。
「日本古武道演武大会」のライブ配信を見た後、夫に感想を聞いてみました。
「初めての日本古武道演武大会、どんな感じ」
「なかなかやった。それにしても、よう、こんな長い時間の演武見てるな」
「……もし、来年、コロナが収まってたら、行ってもいい?」
「好きにせいや」
「ありがとう」
今年の「日本古武道演武大会」は、コロナ禍の中で、感染防止のために、演武者も関係者も苦労されているのが、画面からも伝わってきました。
コロナ禍が収まって、また例年通りに、普通の「日本古武道演武大会」が開催できる日が来ることを、祈っています。
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