彼女は20代後半。結婚を意識した恋人もいる。
結婚後、出産や教育費のことを考えると、30になるまでに、転職してキャリアアップしたい……気持ちはよくわかります。
「転職先は決まっているの?」
「職業訓練校の医療事務3ヶ月コースに申し込めました。医療事務の知識を身につけて、もっと、お給料のいいところで、お金をためて……」
医療事務と聞いたとたん、私の頭の中を黒い影がかすめました。
「医療事務って、就職する時有利だし」と、多くの友人知人が、医療事務の資格をとりましたが、結局、実際に医療事務の仕事に就職できたのは、一握り。
しかも、不安定な派遣やパート。
年々レセプト(診療報酬、病院の大きな収入源)は下がり、赤字経営の病院は増えている。
果たして「医療事務」は、前途有望な仕事なのか……
「転職して、仕事が落ち着いたら、次は結婚式ですよ」
うれしそうな彼女に、私は「がんばってね」としか言えませんでした。
『リクルート 資格と仕事.net』の『今月の人気資格ランキング』によると、就職に役立つ人気資格は、
第1位、ビジネス文書検定、2位、パソコン/情報処理技術者、3位、国家公務員。
4位、医療事務関連資格、5位、公認スポーツ指導者、6位、簿記検定試験。
7位、食品衛生管理者、8位、秘書技能検定試験、9位、あんまマッサージ指圧師、10位、電気工事士……。
一方、『キャリアマトリックス』(独立行政法人労働政策研究研修機構)サイト。
職業についての総合的な情報システム。約500種類の職業情報にアクセスできます。
7月30日付職業アクセスランキングは、
1位、一般事務員、2位、経理事務員、3位、アクチュアリー。
4位、データ入力係、5位、WEBクリエーター、6位、理学療法士。
7位、ゲームクリエーター、8位、システムエンジニア(ソフトウェア開発)、9位、プログラマー、10位、行政事務員(県市町村)……
……うーむ。人気資格と人気職業は必ずしも一致しないものらしい。
「医療事務員」の解説を読むと……
『病院の診察時間中に勤務し、診察が休みの土日などが休日となる。また、大きな病院では、救急患者の受入れに備えて夜勤をしたり、休日に交代で出勤して入院患者の事務手続きをすることもある。レセプトの提出日が決められているため、その時期は忙しくなり、残業することもある』
……「土日休み」は魅力的。残業もあまりなさそうですね。
『就くには 学卒後すぐに入職することは少なく、専門学校や通信教育などで薬価点数や診療報酬点数の換算方法、請求書の作成の仕方、カルテの見方などを勉強してから、入職する場合が多い。特別な国家資格認定は必要とされない。民間で認定されている医療事務の資格を持っていれば有利であるが、入職の必須条件ではない』
……ふうん。資格が「必須」ではないんだ。
根気強さや慎重さの他に、病院の窓口勤務ということで、愛想のよさや機転などの「対人スキル」も必要……
なかなか大変な仕事ですね。
一方、「経理事務員」は……
『まず、毎日の金銭管理として入出金伝票や振替伝票を起こし、現金出納帳や総勘定元帳などの帳簿に記入する。毎月の月末には、勘定科目ごとに集計を行って帳簿の残高を確定させ、実際の預金残高などと一致しているかどうか確認し、月次決算書類を作成する。決算時には、勘定科目ごとに集計を行って試算表などを作成する。棚卸を行って在庫商品の残高を把握し、棚卸表を作成する。これらの金額をもとにして、貸借対照表や損益計算書などの決算書類を作成する。また、会社の健全な経営や合理的な経営管理を行うために、予算の編成と統制に必要な資料を作成する。また、社員の給料計算や現金の出納管理などの仕事も行う』
……このような煩雑な仕事。
『入職には、簿記の資格を持っていると有利であるが、採用時には資格を問われないことが多い。中途採用については、決算・財務業務がこなせるなどの経験者が求められる傾向にある。経験があれば、年齢的な制限は少ない』
……妹は簿記講師。最近は、「経理をしているのですが、仕事がよくわからない。きちんと基礎から身につけたい」という社会人の生徒が多いそうです。
実は、私に経理の仕事を勧めたのは母。
還暦まで現役の経理だった母は、かつて、短大を出て、円高不況で就職浪人していた私に、こう言いました。
「簿記の資格取って経理になり。一般事務なんて仕事あるのは、若いうちだけや。経理やったら、世の中に「会社」がある限り仕事がある。経験があったら、結婚して、仕事やめても復帰できる。簿記の資格取るか、家出て行くか、どっちか決めや」
今考えると、母の厳しいアドバイスは正解。
その後結婚。義母が倒れて、数年仕事をやめて介護をしましたが、再就職は大苦戦。
「今元気でも、また倒れるかもしれない姑がいる人は雇えない」と面接で言われたり、市の女性支援センター就職相談窓口で、「今はコンピュータの時代。簿記なんて時代遅れ。図書館司書とか、ワープロとか、秘書とか、どうして使えない資格ばかり、持っているんですか」と、若い女性職員に罵倒されたり。
結局、現在の職場に就職できた、その決め手は「日商簿記2級・決算準備経験あり」。
女性職員の言葉で落ち込んでいた私も、なんとか立ち直れました。
経理事務員の今後の展望。
『経理部門は機械化による省力化の傾向にあるので、将来的には、単純な計算や帳票作成の業務は少なくなり、より専門的な会計や経営に関する知識が重視されるようになると考えられる』
……大変になりそうですが、会計の基本は身についているので、その延長線で勉強していくことができます。
それにしても、『キャリアマトリックス』。
なかなか興味深いサイトです。
今のところ、転職するつもりはないけれど、面白半分に、「適職検索ナビ」のスキルチェックをやってみました。
「基礎的スキル」「適応スキル」「対人スキル」の3種類のテストをするのですが……
1位は、3種類とも、まったく同じ職業。
家庭裁判所調査官……なんで?
その他、公正取引委員会審査官、小児科医、弁護士、言語聴覚士……
今、やっている仕事も、なりたかった図書館司書も、やってみたい小説家も、全然上位に入っていない。
自分が思っている「自分の適性」や、実際に就いていた「職歴」は、間違ってたのかしらん。
ちなみに、キャリア分析では100%「経理事務員」が適職……???
でも、「今から家庭裁判所調査官をやってもらいます。一番適職だから」と言われたら、絶対抵抗すると思います。
向いていても、やりたくない仕事には就きたくないですから。
「将来性」「収入」「やりたいこと」「適性」のバランスをとった、「仕事選び」は、つくづく難しいと思います。
ラベル:転職