「古武術界の巨星墜つ」
何か穴がぽっかりと開いたような、そんな衝撃的なニュースでした。
「振武館黒田道場」の黒田鉄山先生は、駒川改心流剣術・四心多久間四代見日流柔術・民弥流居合術・椿木小天狗流棒術の宗家。
「型」と「体さばき」のを重視するロジカルな稽古と、あまりに早すぎて見えない「消える動き」で有名な方でした。
「月刊秘伝」で連載されていた「鉄山に訊け」の歯切れのいい武術論は、非常に面白かったし、少し前に「明鏡止水」にゲスト出演して、達人技を披露されていたのに。
「明鏡止水〜武のKAMIWAZA」はNHKで放送されていた異色の武術番組。
フィリピン武術「カリ」・「ジークンドー(截拳道)」「USA修斗」のインストラクターの資格を持つ俳優の岡田准一と、格闘技マニアのケンドーコバヤシの司会が楽しい。
『月刊武道』や『月刊秘伝』などに登場する「武術の達人」や、古武道の「宗家」が実際に演武するところを、アップやスローモーションでとらえて、それを専門家が解説するという、武道家・武術家にとっては「超贅沢」な番組。
黒田鉄山が出演したのは「幕末の剣術&躰道(2021年10月9日放映)」。
「天然理心流」「北辰一刀流」「神道無念流」と「躰道」が中心でしたが、ゲストには「令和の侍」こと黒田鉄山先生と、「武術の達人」こと日野晃先生が、華麗な演武を魅せてくださいました。
相変わらずお元気でご活躍されているなあ……と思っていたのですが。
だいぶ昔、西宮の講習会で、黒田鉄山先生に一度だけお目にかかったことがあります。
講習会で行われるのは、古武術の稽古ではなく、「遊び稽古」と呼ばれる基礎となる身体操法体験。
「合気道の稽古の参考になるでしょう」とお誘いを受けて、講習会に出てみたものの……
可視と不可視(前編) 達人
可視と不可視(後編) 見えざるもの
詳しいことは、2013年の記事に書いていますが、合気道の稽古では見たことのない、異質な動きに翻弄されました。
特に有名な「消える動き」。
「目にも止まらない速さ」という表現がありますが、動いている途中がまったくわからないのです。
5m離れた場所にいた鉄山先生が、次の瞬間、自分の間近にいたので驚きました。
走ってきたわけでもなく、跳んできたのでもない。
近づいてくる気配すら感じなかった。
……恐ろしい。本当に人間の動きだったのか?
今もよくわからないのです。
とんでもないものを見た。
「合気道の稽古に活かせる」なんて代物じゃない。
私が一生稽古してもたどり着けない領域。
衝撃と畏怖。絶望。
立ちすくむ私には目もくれず、黒田鉄山先生は、さらに早い動き、新しい身体操法理論を追い求めて突き進んでいかれました。
黒田鉄山先生。大切な気付きを与えてくださって、ありがとうございます。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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