テーマは「二足歩行を極める」。
番組の後半では、武道の世界で一時期ブームになった「ナンバ」が登場。
腰をひねらず、前に出した足と同じ手が前に出る江戸時代以前の日本人の歩き方です。
例えば、右足を出して一歩前に進む時には右手が、左足を出して一歩前に出た時は左手が前に出ている。
現代人の歩き方とは逆。
合気道もこの「ナンバ」の動きが基本で、慣れるまでにだいぶ苦労しました。
そんなことを思い出していると、ゲストのナンバ術協会最高師範・矢野龍彦から衝撃的な一言が。
「ここ20年誤解されています」
えっ!
ナンバ術を使った歩き方の実演は、一見すたすたと軽やかな足取りですが、両手は振っていない。
しかも、歩きながら掌を下に向けて押すような動作をしている。
「何これ?」とつぶやくと、一緒に番組を見ていた夫が「オリジナルとちゃうか」と返してきました。
その通りでした。
このナンバ術は、江戸時代の人の動きにスポーツ科学などを取り入れてつくられたもの。
解説によると、手をふりながら歩くと、肩と腰が交差して体がねじれるので体にストレスがかかる。
骨盤と胸郭が一緒に上下した動きの方が合理的……また出た。胸郭。
これまで「いい歩き方」の要件とされていたのは「背筋を伸ばす」「膝を曲げない」「顎は軽く引く」「目線は少し遠くに」などで「肚を意識する」「胸郭を前に出す」という話はでてきませんでした。
ここで、出演者全員で「ナンバ走り」を体験。
腕を振る時にものすごく楽になるらしい。すごい。
続いて登場したのは「忍者の歩き方」。
真田家に仕えた忍者の末裔で、吾妻伝甲陽流兵法宗師にして忍道師範・伊与久松メiいよくまつかぜ)が登場が、忍者の歩き方「抜き足・差し足・忍び足」の実演。
戦国時代の忍びは夜に移動したり、足元の不安定な山道を移動したりするため、「足で地面を探りながら歩く」という独特な動きをします。
この時「肚(はら)」を起点に身体の中心軸ごと移動することが大切らしい。
これに似た動きが見られるのが、「日本古武道演武大会」の「初實剣理方一流甲冑抜刀術(しょじつけんりかたいちりゅうかっちゅうばっとうじゅつ)」の演武。
甲冑姿の武士が夜襲をかけるために、姿勢を低くして刀の鞘で敵がいないか探る動きや、片足立ちで相手に切りつける型を披露しています。
……来年の「日本古武道演武大会」。また見に行ければいいなあ。
そして「刀を持った武士の歩き」。
春風館関東支部主宰の赤羽根大介が、肚と腰を軸に重心を移動させる動きを「柳生新陰流」を例に説明します。
最後はオリンピック競技の「競歩」。
元陸上アスリートの為末大が「最も効率を追求した歩き」という「競歩」。
1qを4分以内で歩く。
自転車の平均速度と同じ時速15km。
ランニングよりも競歩の方が速い。恐ろしいなあ。
いろいろな「歩き方」が登場したわけですが、司会の武術家・岡田准一の「歩くことは一番の修行」という言葉が印象に残りました。
「明鏡止水 武の五輪」は全8回の放映予定。楽しみです。
【関連する記事】
- 立つと歩く(前編) 帯と袴
- 黒田鉄山先生(武道系コラム・特別編)
- 令和5年の日本古武道演武大会(後編)続ける覚悟
- 令和5年の日本古武道演武大会(中編)遠い間合い
- 令和5年の日本古武道演武大会(前編)逡巡
- 武蔵の剣(後編)攻めの剣・守りの剣
- 武蔵の剣(前編)明鏡止水
- 令和4年の日本古武道演武大会(後編)一長一短
- 令和4年の日本古武道演武大会(中編)拍手
- 令和4年の日本古武道演武大会(前編)静寂
- 日本古武道演武大会の進化(特別編)前代未聞
- 異変(後編)忍び寄る影
- 異変(前編)凶兆
- 明鏡止水(後編)理合
- 明鏡止水(前編)起こり
- 続・袴考(後編) 進化
- 続・袴考(前編) 伝承
- 武道とリハビリ(後編)筋力
- 武道とリハビリ(前編)変化
- 距離感(後編) 拳の間合い