……これはヤバイのでは。
生まれつき腰椎の骨の一部がずれている「腰椎分離症」なのですが。
進行すれば「椎間板ヘルニア」になって歩けなくなり、寝たきりになってしまう可能性もある病気。
20代の頃に突然腰が痛み、左足がしびれて動けなくなったことがありました。
その時は「腰椎分離症。分離すべり症には至っていない」との診断。
腰をベルトで引っ張る「牽引療法」で症状が改善したのですが、その時に「重い荷物を持ったり、中腰の姿勢のままで作業しないように」「現体重の維持」を言い渡されました。
以来、40年近く、ずっとそれを守ってきたのに……何がいけなかったのか。
そして、不気味なのは膝の痛み。
10年ほど前、膝痛を起こして一時右足を引きずっていたことがありました。
なんとかストレッチで治ってきたものの、最近、また右膝が痛む。
「膝の痛み」といえば「膝に水がたまる」「関節が変形する」などの「治癒不能の病気」。
こわくなって、あわてて病院に行きましたが、検査の結果は意外なものでした。
「腰椎分離すべり症。腰椎が腹部側に移動して神経を圧迫しています。膝は軟骨が減りはじめています。原因は加齢による腹筋と背筋、膝周りの筋肉の衰え」
「加齢?」
「60歳ですよね」
「いや、確かに60ですが……手術は必要ですか?」
「今のところ、腹筋や背筋を鍛え直せば問題ありません」
「膝もですか」
「軟骨がすり減った分、膝周りの筋肉を鍛えないと、ますます痛みがひどくなります。そろそろ意識的に鍛えないとダメですよ。それと体重も減らしてくださいね」
「体重は20代から変わってないんですが」
「これから筋力が衰えるので、同じ分量の脂肪は支えきれなくなります。太っていると成人病のリスクも高まりますから。それから重いものを持ったり、かがんだ姿勢を続けたりしないように」
「……はい」
『腰痛になってしまったら!(日本シグマックス発行)』と『ひざ(膝)の体操』のプリントと医療用コルセット、痛み止めの薬をもらって帰宅。
「加齢」……そうきたか。
「60歳になると急に体が衰える」という話は聞いたことがありますが、それが「腹筋の衰え」とは思っていませんでしたね。
家に帰って何もする気にもなれずに、布団をかぶって寝込んでいると、夫が透析から帰ってきました。
「腰と膝、どうやった」
「老化で腹筋と背筋が衰えてたらしい。手術はせんでいいそうや」
「そうか。ひどいことにならんでよかったな」
「まあ、そうやけど、腹筋とか膝の筋肉とか鍛えなあかんらしい」
「そりゃええやんか。ちょっとそのへん30分ばかり歩いてこいや」
「30分も歩く……」
「合気道とかどうやねん。柔軟しっかりやるやんか」
「合気道!」
「昔みたいに飛び受け身はできんかもしれんけど、無理せん程度にやったらええんちゃうか」
唐突に「合気道」の話が出てきて驚きましたが、準備運動の柔軟は、確かに合理的で理にかなっています。
「でも、こんな状態ではじめて大丈夫かな」
「無理せん程度にやったらええやろ」
夫はすこし寂しげな顔をしました。
「俺かて武道続けたかったわ」
人工透析と人工肛門。二つの障害を持つ夫にとって、武道復帰は永久にかなわぬこと。
とりあえず、パンフレットに書かれているストレッチを実行。
コルセットをつけて、なるべく歩くように意識してみます。
たぶん、近いうちに、歩行の専門家に歩き方をチェックしてもらって、16年ぶりに靴の中敷きをオーダーすることになるでしょう。
歩くたびに足腰が痛いのは辛いですからね。
手の施しようのないレベルの手前でストップがかけられたのは不幸中の幸い。
これを機会に生活習慣を変えてみます。
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