現在mixiの『文房具コミュニティ』で盛り上がっている掲示板の一つです。
掲示板の回答では、細字ボールペン愛用者が圧倒的。
その次が鉛筆。シャープペン、影薄し。
そういえば、シャープペン……学生以来使ったことがないですね。
私の職種、経理では、帳簿を書く時は黒ボールペン。
訂正する時は字を赤ボールペンで消し、訂正印を押します。
数字をシャープペンや鉛筆で記入し、消しゴムで訂正していると「この帳簿、何かごまかしがあるに違いない」と税務署ににらまれてしまうからです。
ところが「シャープペンやないと仕事にならんわ!」と叫ぶ職業も……それは製図業界。
夫はCAD講師のほかに、トレースやテクニカル・イラストレーション(機械製図)の講師もしているのです。
プラスチックの小型ツールボックスの中には、シャープペンシルがぎっしり。
三角スケールだの、字消し板だの、フローティングディスクだの……私には用途のわからない文具も、たくさん入っています。
「どうや。お前には、わからんもんばっかりやろ」と、得意げに言われたので、なんだか悔しい。
機械製図だけでなく、あらゆる図面を描く作業には、訂正がつきもので、消しゴムで消せなければなりません。
でも、鉛筆では線が太すぎて細かい図形が描きにくい。
夫の製図用シャープペンは、普通のシャープペンと違って、ペン先の芯が出てくるパイプが長い。
定規を当てやすくて正確な線を引くことができるからです。
線の太さで描きわけが必要なので、太線用の0.7ミリ。
細線用の0.3ミリ。0.2ミリ。
寸法線などの文字を書くための0.5ミリ……
なるほど、ツールボックスの中が、シャープペンだらけになるわけです。
「シャープペンは、シャープの社長が発明したんやで。早川電機工業いう名前やったけど、シャープペンの名前を取って、社名をシャープに変えたんやで」
ほんまかいな……夫の言葉を疑いつつ、シャープペンについて調べてみました。
『ウィキペディア』(2007.8.15 15:26)によると、シャープペンシル……日本と韓国ではこう呼ばれている文具は、1822年、イギリスで発明された「プロペリング・ペンシル」。
1838年に、アメリカで「EVERSHARP PENCIL(とがったままの鉛筆)」の商標申請された、「メカニカル・ペンシル」のこと。
日本では1915年、早川兄弟社(現在のシャープ株式会社)の創業者、早川徳次氏が金属製繰出鉛筆を発明。「早川式繰出鉛筆」として特許を取得。
これ以前の繰出鉛筆はセルロイド製で壊れやすいものでした。
翌年、芯をさらに細いものに改良し、「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」として発売。
海外に輸出されて大当たり。
この当時のシャープペンは、本体の末端にあるパーツを回転させて、芯を送り出す回転式でした。
1960年、大日本文具株式会社(現在のぺんてる)がハイポリマー芯を開発。
強度の高い芯ができたことで、芯をさらに細くできるようになり、0.5ミリ芯が完成。
現在主流のノック式シャープペンが普及します。
『日本筆記具工業会』サイトによると、現在のシャープペンは、ノック式(口金とガイドパイプが一体の固定パイプ式、分離しているパイプスライド式)。
ノックボタンを大きくノックすると口金が出、小さくノックすると芯が出るダブルノック式。
軸のサイドにノックボタンがあるサイドノック式。
軸を上下に振ると芯が出る振り子式。
回転によって螺旋パイプを伝って芯固定部が上下する回転式があります。
現在では色芯や、環境に配慮した残芯の少ない芯までが開発されて、さらに改良が進むシャープペンシル。
『日本の産業シリーズ・君の手にとどくまで6 シャープペンシルがとどくまで』(岩崎書店)によると、シャープペンシルのプラスチック軸を作る会社、金属パーツを作る会社、消しゴムを作る会社……
それぞれのパーツが別の会社で作られて、文具メーカーで組み立てられているらしい。
かなり手間のかかる商品ですね。
ちなみに、一番高級なシャープペンシルは、『カランダッシュ限定品ダイヤモンド&ラインズ・シャープペンシル』。
ペン・ギャラリー報画堂がyahooと楽天に出品しているもので、お値段22万500円。
いやはや恐ろしい話ですね。
さて、その後の早川徳次氏は……
1923年の関東大震災で、家族と工場を失った早川氏は、残った債務返済のために、「早川式繰出鉛筆」の特許を日本文房具に売却して、大阪へ。
1924年、早川金属工業研究所を設立し、日本文房具の下請けの仕事をしていましたが、大阪の心斎橋でアメリカから輸入された鉱石ラジオを見、日本でもラジオ放送が始まることを知り、ラジオの製品化に取り組みます。
1925年には、国産第1号機の鉱石ラジオの開発に成功。「シャープダイン」という名をつけた、このラジオは爆発的に売れました。
1929年には、真空管ラジオを発売。その後、ラジオの普及と共に業績は拡大。
1936年に早川金属工業、1942年に早川電機工業に改名。
終戦後の困難を乗り越えて、1964年には、世界初のオールトランジスタ・ダイオードの電子式卓上計算機を開発。
1966年には世界初のターンテーブル方式の電子レンジを開発。
1970年早川電機工業は「シャープ」に改名。
早川徳次氏は社長を退任します。
「まねされる商品を作れ」……そんな理念を持った早川徳次氏は「シャープ(SHARP、鋭い)」という言葉に、とても強い思い入れがあったのだと思います。
常に、新しいものを開発しようとするシャープ。
時々失敗しては「ハヤカッタ電機」と揶揄されることもありましたが。
『シャープ』サイトによると、その後も研究開発は盛んに行なわれ、1973年、世界初の液晶表示CMOS化電卓を開発。
1999年、世界初の20型液晶テレビを発売。
世界初のMPEG−4方式の動画送信可能なビデオカメラ発売。
2000年、世界初のクラスターイオンによる空気浄化技術開発……
「世界初」の商品を、たくさん世に送り出しています。
もしも、関東大震災で早川徳次氏が工場と家族を失わなければ……
おそらく、日本で、シャープペンシルが現在ほど普及することもなかったし、SONYとともに「技術立国日本」を代表する企業「SHARP」も存在しなかった……
何か因縁めいた、目に見えない大きな力を感じるのは、私だけでしょうか。
ラベル:シャープペンシル