『文科省によると、武道の必修化は「触れてみて良さがはじめて分かる」(企画・体育課)という狙いが強い』(Sankei Web 2007.9.4 21:02)
……中学校の武道必修化、難儀なことになったなあ。
私が中学生だった頃、剣道部などの部活はありましたが、授業で武道はしていませんでした。
高校で男子が週に1時間、剣道か柔道の選択で授業を受けていたような……。
「そうやなあ。俺も中学の時は、柔道部とかはあったけど、授業はやってなかったで。俺、道場で忙しかったし。高校の授業で柔道やったけど。部活で武道やったことないわ」
夫は、空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。
空手と剣道では指導員の経験もあり、武道を「教わる側」と「教える側」、両方を知っている人。
夫の祖父は、戦時中満州(中国北部)に出征。
現地の中国人から習った少林拳を、近所の子供たちを集めて教えていて、子供だった夫も、自然と武道に親んでいました。
夫の父は柔道五段の柔道家。
小学生になると、夫は、父の友人の町道場に通うことになります。
夫自身は、平行して稽古していた空手の方が面白く、柔道は途中で中断。
高校に入り、「そういえば、柔道は段取ってない」と気づいた夫は、体育の選択で柔道を選び、初段を取ります。
学校の柔道の授業と道場の柔道の違いについて……
「そりゃ、町道場は、言い方悪いけど、商売やから。生徒の興味を引きつけたり、生徒の個性に合った教え方したり、そういう意味では、目配りきいてたわな」
中学の武道必修化、女子も必修……「無理やろ。教える人間が足らんわ」と一言。
私も合気道をしていて思うのですが、稽古中、技を教えているのは、師範だけではありません。
師範の見本の技の受けを取る高段者。
技ができず、初心者が困っているのを見たら、すかさず助ける指導員。
有段者も周囲の白帯や初心者が、技がわからず困ってないか、ケガにつながる危険な動きをしていないか、絶えず目配り。
組み手の相手もまた、技を指導してくれる一人。
……稽古している人みんなが、「教える人」でもあるのです。
今は、学校によっては武道を教えていないところもあり、武道を教えていても、選択制で授業時間も少なく、それほど問題はありませんでした。
でも、武道が必修授業となると「有段者の体育教師一人に対し、初心者数十人」になるのですよ。
思春期でも、体調がやや安定した高校生ならともかく、中学生、特に、この年代の女子は、突然貧血などを起こすことも多いです。
しかも、武道の動きは、一般のスポーツと異なります(詳細は『古を鑑みる』(前編)にて)から、生徒一人一人に、配慮する必要が出てきます。
そうでなければ、「武道を必修化したため、ケガ人続出」になる可能性も。
夫と武道必修化の話をしていた時、ちょうど、テレビでは、『世界柔道・女子52キロ級』を放映中。
西田優香が3位決定戦で、ブラジルのミランダを破った試合。
開始1分、西田がミランダを、鮮やかな背負い投げで力いっぱい畳にたたきつけ、会心のガッツポーズ。
……うーむ。柔道って、ハードですね。
柔道のルールは非常に厳格です。
例えば、『ウィキペディア』(2007.9.19 11:06)によると……
『抑込技で、国際審判規定では相手の背、両肩または片方の肩を畳につくように制し、相手の脚によって自分の身体、脚がはさまれていない場合、25秒間経過すると、「一本」勝ちになる。20秒以上25秒未満で「技あり」、15秒以上20秒未満で「有効」、10秒以上15秒未満で「効果」である』
……うーむ。細かい。ストップウォッチで計ってるのか?
『古を鑑みる(後編)』で、剣道のルールを調べた時、「うわっ! こまか!」と驚きましたが、考えてみると、相撲の決まり手も、かなりルールが細かい。
つまり「ルールが細かいと、指導しやすい」。
……なるほど、必修化対象が、この三つの武道に絞られた理由が読めてきました。
『文部科学省』サイト、現在の中学校学習指導要領では、武道について、
『自己の能力に適した課題をもって次の運動を行い、その技能を身に付け、相手の動きに対応した攻防を展開して練習や試合ができるようにする』。
『伝統的な行動の仕方に留意して、互いに相手を尊重し、練習や試合ができるようにするとともに、勝敗に対して公正な態度がとれるようにする。また、禁じ技を用いないなど安全に留意して練習や試合ができるようにする』。
『自己の能力に適した技を習得するための練習の仕方や試合の仕方を工夫することができるようにする』……としています。
「ルールを守ること」を重視していて、あまり「日本の伝統の再認識」を重視していないようですね。
「伝統の再認識」なら、茶道を道徳の授業でする方が、効果的かもしれない。
それに、指導要領では、なんとなく「自分に合ったやり方を自分で考えろ」と、突き放されているような感じ。
果たして、現在の中学体育教師に、「自分で考えさせる武道」を教える器があるのかどうか。
しかも、体調が不安定な思春期の女子中学生、一人一人に目配りして、きめ細かい指導ができるかどうか。……心もとないなあ。
もし、私が中学生で、「柔道か剣道か相撲のどれかを選べ」と迫られたら、相撲は張り手で顔を張られるので、ちょっとかなわん。
柔道も、勢いよく投げられて、受けを取り損ねたら大ケガしそうだし……
しょうがないなあ。剣道か。
たぶん、大方の女子中学生も似た選択をすると思います。
おそらく、武道必修化は、伝統の再認識問題解決を別として、大量の女性剣士を生み出すでしょう。
ちなみに、中央教育審議会の主な仕事は、
「文部科学大臣の諮問に応じて、教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項、スポーツの振興、生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議し、文部科学大臣又は関係行政機関の長に意見を述べること」
……なぁんだ。「意見を述べる」だけなんだ。
まだ、決定事項ではないのです。
武道必修化……いいことなのでしょうが、問題は山積み。
改正教育基本法のように、「明文化」される前に、保護者、学校関係者、武道関係者などが集まって、きちんと論議すべきだと思います。
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2007年09月22日
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