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2007年10月23日

心眼(後編) 心眼を鍛える法

「今、俺は、お前の左手の小手をねらって、「気」で斬りつけた」

「いきなり、「気」の遠当てみたいな、危ないことすな! 当たったらどないすんねん!」

怒る私。
夫は不敵な笑みを浮かべました。

夫の祖父は、中国武術の少林拳の使い手。
それを子供の頃に習ったので、夫は硬気功(敵にダメージを与える気功)を使えるのです。

「そやけど、俺の目の動きから、「気」見切って、ちゃんとよけたやんか」

「……いや、失敗した。……自分で右に飛んだ記憶がないねん。たぶん、私の体の意思が、「観の目」で危険を察知して、一瞬、私の意識を封じて右によけたんや。私が目の動きに気をとられてたから、対応遅れて、かすったんやと思う」

私の体の意思(自己防御本能)から見て、私の意思は足手まといなのか……落ち込むのは、こういう時です。

私は、ぴりぴりと痛みを感じる左手の甲をさすりました。
赤くなっていないのですが、殺気の塊がかすめただけで、ぴりぴりするぐらいですから、まともに手の甲に当たれば「痛い」程度ではすみません。

もし、私が「見の目」が、きちんと使えていれば、こんな不覚はとらなかったのですが……。

やはり、武道家には、動体視力と経験からなる「見の目」。
それ以外の感覚、視覚の周辺視野や聴覚、触覚、嗅覚、あるいは直感などを総合した、いわゆる心眼……「観の目」。
両方が必要です。

「心眼」……超常現象的な、特殊なもののようなイメージがありますが、ひょっとしたら、現われ方が違うだけで、誰もが持っている能力かもしれません。
まだ、人体の機能のすべてが、科学的に解明されている訳ではないのですから。

すでに、目の見えない人が指先で色を識別したり、耳の聞こえない人が、空気の揺れ(波動)で音を聞き分けたりする例が報告されています。
「心眼」の謎や、人体の可能性が科学的に解明される日は、いずれ来るでしょう。

ところで、私の場合……子供の頃から強度のアレルギー。
私の敵、ハウスダストや花粉は目に見えないもの。
その見えざる敵は、吸い込めば喘息、鼻や目に付着すれば鼻炎や結膜炎となって、私を苦しめます。

いかにして見えざる敵を防ぐか……
結局、アレルゲンを吸い込んだり、鼻や目についたりする前に、薬やマスクで防御する。
そのために、その場のハウスダストの濃度を、直感で瞬間的に読み取る。
触覚で花粉の量を読み取る……

そういう方向で体が適応していき、「危険物の位置や速度、異変を敏感に察知する」能力だけが、突出して高くなりました。

でも、私の皮膚の持病には、軽いアトピーと接触性ジンマシン(特定の繊維や化学物質に触れた途端、強烈なかゆみと発疹を引き起こすアレルギーの一種)がありますから、「感覚は鋭敏なほどよい」とも言えません。

目に見えない敵に対抗することを優先した結果、視覚……特に動体視力が発達せず、今も、映画鑑賞やゲームなど、「動くものをじっと見る」ことが苦手。

特に見取り稽古(師範の実際の動きやビデオ映像などを見て、それを分析する稽古)には大苦戦。
夫から見取り稽古のコツ(詳細は『三十一の杖』(前編))を教わって、今、「意識して目で物を見る」訓練中ですが……。

私は大きく溜息をつきました。

「「見の目」が全然使えてないなあ。DS眼力(めぢから)トレーニングでも、買おうかな」

『DS眼力トレーニング』は、5つの眼力、「動体視力」「瞬間視」「眼球運動」「周辺視野」「眼と手の協応動作」をトレーニングするゲーム。
このゲームをしたことがありませんが、ある程度の動体視力の向上効果はあるらしい。

「ゲームでもええけど、目使いながら、実際に体動かした方がいいで。空手では、糸つけたピンポン玉を天井からつるして、それを上下左右めちゃめちゃに振ってから、ピンポン玉の中心を指で突く稽古してた。剣道では、竹刀の先でピンポン玉ねらった」
「難しそうやね」

「玉の中心突けると、めちゃめちゃに揺れてた玉が、スパーンとまっすぐ向こうに行く。そして、ちゃんと振り子の揺れ方になる……練習積んだら、3回に1回ぐらいは中心突けるようになるんや」
「3回に1回でいいの?」
「お前なあ……3回に1回でも、かなり大変やねんで」

夫は呆れ顔で言いました。
しかし、この稽古はやってみる価値がありそうです。

ところで、私の所属道場では、「観の目」を養う稽古が、さかんに行なわれています。

その中でも難しいのが、「師範が手を打つのに合わせて、門下生全員が体の転換(合気道の基本動作、一歩前進して反転)をする」という稽古。
この時、転換する側は、師範や周囲の人を見てはいけません。

師範が「よし、手を打つぞ」と思った瞬間に、全員が、そろって体の転換をするのです。
実際に手を打ってからでは遅い。
しかも、師範は、いつもタイミングをはずすように、こちらが思わぬ時に手を打つのです。

合気道をはじめた頃の私は、この稽古が苦手でした。
師範が「よし、手を打つぞ」の「よ」の段階で、体が勝手に反応してしまうのです。
実戦上は、「よ」のタイミングで、相手に打撃を与えるのが鉄則ですが、これは「全員が気を合わせ、一斉に体の転換をする」稽古なので、「よ」のタイミングで動くのは、フライング。

まず、軽く目を閉じ、心の中に波一つない水面をイメージ。
両方のこめかみに意識を集中し、周囲の人の息づかい、師範の気配などを全身で感じ取ります。

師範が「よし、手を打つぞ」の「よ」の段階で、心の中の水面にできる、かすかな波紋。
そこから、ちょうど一拍分、間をおいて転換すると、みんなと動きを合わせることができるとわかったので、今は、この稽古も苦にならなくなりました。

師範は、合気道初心者が多いスポーツ教室でも、この稽古をされるのですが。
面白いことに、最初、ばらばらのタイミングで動いていた初心者たちが、何度か稽古を繰り返しているうちに、全員がタイミングを合わせて動けるようになるのです。

心眼……まだ解明されていない人間の可能性。
どのような形で現われるかの個人差はあっても、訓練しだいで、誰でも身につけることのできる能力ではないでしょうか。 
ラベル:武道 合気道 稽古
この記事へのコメント
旦那さんもスゴイですね!!
お会いしてみたいです。

最近、稽古サボっているので、刺激になります。
ありがとう御座います。
Posted by 大河まさみつ at 2007年10月23日 23:39
心眼・・・
誰でもというのはやはり難しそうで。
心眼は武道とともに身に付けたと言う話は聞きますが、武道以前に自得していたと言うのも稀な事なのでしょうね。
Posted by やまま at 2007年10月29日 23:08
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