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2007年11月13日

黒帯(前編) 疑心暗鬼

「黒帯になるということは、伝統あるこの道場の黒帯として、相応の人間でなくてはならない。……私はまだ早いと思う」
 
……ある高段者の言葉です。
この言葉は、いまだに私の胸に刺さったまま。

しかし、今年の春の昇段審査前に、この言葉を聞いた直後は、非常に落ち込みました。

「それ相応の人間」……それは、単に技量が足りないということなのか。
もし、「人間性」のことを指しているとしたら、永久に昇段できないかもしれない。

私は喧嘩出身。
女性のわりに、かなりの実戦の場数を踏んでいる方ですが。
一度も自分から戦ったことがないのに、運悪く、やたらに戦うはめになっているのです。

このコラムでも、時々「実戦の場合には」という表現が出てきますが、合気道をはじめて6年の間に、すでに2度、実戦に巻き込まれています。
実戦を想定しないことは、私にとって、非常に危険なこと。

ところが、かつて私が実戦で完敗したのは、皮肉にも、合気道の技(『合気道へ』前編参照)でした。
正確には大東流合気柔術の「呼吸投げ(合気道にも同じ技がある)」ですが。
負けた時、思いました。

……ひょっとしたら、この技なら、自分も相手も死ななくてすむかもしれない……。

その後、「合気道は、自分から戦わない。平和的に相手を制する武道や」と、夫に聞かされた時は、心底うらやましかった。

私は、子供の頃から喧嘩に明け暮れ、独学で護身技術を磨きました(詳細は『武道と護身』中編)が……。

この護身技術、「相手の直撃を避ける。自分から戦わない」点では、合気道と同じですが、戦った相手に、トラウマになるほど、心理的ダメージを与えてしまうところが、合気道とは天と地ほど差があります。

師範は「相手の敵意や力をすべて吸収し、自分の中に納めて、平和的に相手を制する」ことを目標とされていて、道場の門下生一同、それを目標に稽古しているのですが……

私の場合、戦いたくない私の意思とは別に、強力な自己防御本能(体の意思)があり、なかなか思う通りに体が動かせないことが多く、そして、いつも頭の片隅に「実戦」の二文字を置いておかなければならない。

自分の理想に邁進される師範と、師範の教えに従って、何の迷いもなく、楽しそうに合気道をしている他の人が、まぶしく思えて、時々、遠巻きにながめていたりします。
そういうところが「黒帯としてふさわしくない」……かもしれない。

合気道をはじめてからの2度の実戦のうち、自転車置き場で精神異常の男にからまれたのは、まだ合気道をはじめて間がない時。

白目をむき、自分の舌を指差して奇声を上げながら迫り来る男。
私は、とっさに得意の蹴りを使うことにして、我流の構えをとった途端……相手は悲鳴を上げて逃げていきました。

家に帰って、夫にそのことを報告しました。

「……お前、また殺人鬼みたいな顔しとったな。うろおぼえの合気道の技使わんと、得意の蹴り使うたのは正解やった。そやけど、合気道の技使うことを、全然思いつかんかったとは、何事や! いったい、何のために合気道習っとるんや! ちょっとそこへ座れ!」

リビングに正座をさせられて、小一時間説教されました。

2度目の相手は、バイクに乗ったひったくり。
これは、自分の護身技術と合気道精神を調和させて、なんとか切り抜けました。(『武道と護身』後編参照)

……合気道の理想とは、かなり離れた場所にいるけれど、すこしずつでも、師範や、みんなと同じ方向にむかいたい……その願いは変わりません。

そんな中、さらに私を不安にさせたのは、「この秋から、昇級昇段審査のルールが変わる」との噂。
東京の本部道場の決定なら、それは絶対的なものでしょう。

この「審査のルールが変わる」というのは、「技が難しくなる」「審査の受験資格(前回昇級昇段した日から稽古日数を数える。級や段が上になるほど稽古日数が多く必要)が厳しくなる」ということを意味しています。

この春の段階で、一応、規定の稽古日数は達していたのですが、審査のルールそのものが変わるとなれば、必要な稽古日数も増える……なおさら、初段……喘息を軽くするための丹田呼吸法習得のスタートラインは遠ざかる。

過去の昇段審査のビデオで、出題される技を研究していたのに、それも全部ムダになるかもしれない。
前回、春に昇段審査を受けられれば、こんなことにはならなかったのに……ひょっとしたら、合気道、むいていないのかも。

そんな迷いの上に、4月から仕事も忙しくなったこともあって、だんだん稽古から足が遠ざかる。
……5月になって、夫に言われました。

「最近、あんまり稽古行ってへんみたいやけど、昇段大丈夫か?」
「ひょっとしたら、永久に昇段できんかもしれん。……秋に審査ルールが変わる」 

「春に昇段に止め入って、その上、秋から審査が変わるやと! なんやねんそれ! はっきり師範に訊いてこいや! 自分一人で、ぐちゃぐちゃ悩んどらんと!」

夫の剣幕に背中を押された私は、久しぶりに道場へ。
稽古後、直属の指導者の道場長代行に、「この秋から、審査のルールが変わるというのは、本当ですか?」と訊いてみました。

道場長代行は、腕組みをしたまま言いました。

「……まだ具体的な話は聞いてないが、おそらく、稽古規定日数は変わらんやろうな。技は難しくなるかもしれん。しかし、曲がりなりにも初段になろうとする人間は、どんな技が出てきても、できんといかん」

代行は厳しい表情を見せました。

「もし、本気で初段取る気があるなら、座技一教から四教(正座したままの関節技4種類)、完全にできるようにしておけ。体力づくりにもなる」

本気で初段取る気があるなら……代行も、私の迷いをご存知だったようです。

大勢の人が、私の昇段に期待してくれている。
……秋に昇段できるかどうか、わかりませんが、できる限りやってみよう……。
思いなおした私は、再び稽古に通うようになりました。

……次回に続く……
ラベル:武道 合気道 稽古
posted by ゆか at 14:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム・合気道 | 更新情報をチェックする
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