私の大真面目な質問に、夫は大笑い。
「そういうわけやないけど。合気道続けとったら、そのうちわかるわな」
「そうかなあ」
「なんやったら、合気会の有段者に訊いてみ。そやけど、あんな邪魔くさい暑苦しいもんの何がええねん。俺は大東流で段取った後も、袴履かずに稽古しとったけど」
「だって、袴履いてると、かっこいいやんか」
「ミーハーなやつやのう」
夫は呆れますが、実際、道着とステテコ姿で稽古している人が、昇級して袴姿になると、五割増しぐらい、かっこよく見えます。
道場によって違いますが、大抵は上級者になると茶帯に紺袴、有段者になると黒帯に黒袴をつけることが許されるのです。
私も上級者になって紺袴をいただいたので、さっそく家で袴を履いて、袴が重くて足が持ち上がらないのか、試してみました。
回し蹴り、踵落し、ベッドにむかっての飛び蹴り……袴が邪魔になってやりにくいけれど、やってできないことはありません。
確かに袴は重いのですが、1.2キログラムでは、筋力を鍛える重石としては軽すぎるし……
年配の有段者に袴を履く理由を訊いたら、「開祖が袴を履くよう、おっしゃられたのだから、黙って袴履いとれ!」と怒られそうな気がしたので、初段の若者に訊いてみました。
「袴を履くメリット? 僕は合気道は袴を履くものと思ってましたが……そう言われてみれば、重くて動きにくいし……」
彼は眉間に皺を寄せて考え込んだ後、「すみません。今度までに調べてみます」と言いました。
宿題を出してしまったみたいで、申し訳なかったです。
この話が道場内で広まったらしく、翌週の稽古中、師範から全員に説明がありました。
「足を見せないため」だそうです。
その話をすると、夫はにやりと笑いました。
「ところで、お前、剣の間合いはどのぐらいあると思う?」
「棒を持った相手とやり合う時、いつも逃げるふりして、足場の悪いところに誘い込んで仕掛けてたから、はっきりとはわからんけど。……障害物のない平坦な場所で、剣の長さと腕の長さ、プラス踏み込み分を入れて……ざっと3メートル四方の面積がないと、自由に剣を振り回せないと思う」
「剣振り回す時は、そんなもんやけど。腕の立つやつは突きができるから、もっと狭い間合いでも動きよるぞ」
夫の説明によると、接近戦の空手や柔道と違い、合気道は相手が剣を持っている分、距離が離れたところから、相手に近づかなければいけない。
そうすると、必然的に体の動きが大きくなります。
その時、次の動きが膝頭や足の親指の先に現れてしまうので、その部分を相手に見せないように袴を履くとのこと。
剣を使う剣道、居合道、そして、剣を持った相手を素手で制する柔術から発展した大東流合気柔術や合気道、これらの武道が袴を履き、明治時代の廃刀令が施行されてから広まった空手や柔道が袴を履かないのは、そういう理由でしょう。
とりあえず、今のところ、これが私なりの答えですが、「袴を履く理由」については色々な説があるので、また調べていきたいと思います。
そして、この袴の扱いがまた、大変なのです。
……次回へ続く……
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服装一つにしても、歴史的な裏づけが有るものなんですね。。。
というより、必然性があるからその形なんですね。
思わず納得してしまいました。
躰道という空手から派生した武道をやっているのですが、この袴は足首丈です。剣道や合気の袴を見るたびにひらひらして動きにくそうだなと思ってたのですが、理由をきいて納得しました。