睡眠薬、大麻、シンナー、LSD、幻覚サボテン……古今東西の文献に彼自身の体験を交え、淀川の水を思わせる青緑の湿っぽさとユーモアを帯びた叙情的な文章でつづられたドラッグ・エッセイ。
この本にひかれたのは目次に『咳止めシロップ』『ステロイド及び血液』とあったからだ。
喘息の私は、咳止めシロップとステロイド剤を常用していて、この薬なしでは生活できない。
なぜ、人はドラッグにひかれるのか?
彼は「それが気持ちいいからだ」と答えている。
ブロンを飲んで「よし。効いてきた。息が楽だ」と言って、バリバリ働いたりする私は、薬物依存でも、ジャンキー失格らしい。読んでいて悲しくなった。
『ジャンキーが、あるいは幻覚を必要とする人間が、それを承知で受け入れる分には、どんなドラッグもいやしいものではありえない。加えて言えば、ドラッグとは、シャブも含めて、ただの物質である。ただの物質に貴い物質もいやしい物質もない。個人、及び社会との関係がドラッグの性格を決めるだけだ』……これが、彼の立場だった。
この本が出版されたのが1995年。
10年後の今は、ドラッグがインターネットや繁華街の密売人を通じて、簡単に手に入るようになり、女子高生がダイエット用に乱用したり、元国会議員が覚せい剤所持で逮捕されたり……がさつで単純な時代になった。
その後、彼は、バンドを結成したり、長年の無茶な生活がたたって体を壊したり、大麻所持で逮捕拘留されるなど、70年代の破滅型ロックンローラーを地でいくような生活を送り、2004年7月27日、階段から落ちて脳挫傷で死んだ。
享年52歳。あっけない死だった。
『アマニタ・パンセリナ』 中島らも 著 集英社文庫
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