皆様、あけましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。
本年も『ventus〜風のごとく〜』を、よろしくお願いいたします。
さて、2008年最初の日常コラムは、文具ブロガー、やまかつさんからのリクエスト。
大変お待たせいたしました。
「『ハサミ計画中間報告』の続きを」のリクエストをいただいてから、鋏選びに2年近くかかったのです。
『ハサミ計画』……日常生活上質化計画鋏部門。
洗面所、台所、リビング、寝室に、その場所の用途に合った、耐用年数10年以上を見込める上質な鋏を1つずつ配置し、古い安物の鋏はすべて処分する計画。
手が大きな私は、自分の手になじむ鋏を探すのに、とても苦労しているのです。
鋏の場合、刃渡りや鋏の柄の輪の直径、重心の位置など、実際に手にとってみないと決められない条件が多すぎる。(詳細は『ハサミ計画進行中』にて)
和鋏、裁ち鋏が有名な兵庫県小野市の『美鈴ハサミ株式会社』
サイトによると、よい鋏の選ぶポイントは、刃を開閉した時に、軽くスムーズに動くか。
試し切りできる場合は、実際に切ってみて、ひっかからずに布が裁てるか。手に持った時のバランスがよいか。
刃の磨きが丁寧で均一か。
柄の塗装に色むらがないか、厚みが均一か。
柄に磨き残しのバリがないか。手ざわりが滑らかで、しっくりと馴染むか。
素材は安来鋼、スウェーデン鋼などが望ましい。
付け鋼、全鋼、ステンレス、鋳物など製法によって手入れ方法が違う。
……普段、なにげなく使っている鋏ですが、真剣に選ぼうとすると、かなり大変です。
とりあえず、洗面所は、林刃物『ALLEX』の毛スキ鋏と、コクヨ『テピタ』左右非対称型。
リビングは丸章工業『SILKY NEVANON』に決定。
残るは台所と書斎。
台所は「本当にキッチン鋏が必要か?」で暗礁に乗り上げ、書斎では、20年ほど愛用していた小学校時代の家庭科の小型布切り鋏(羅紗切り鋏)と、同型のものが見つからず……
長い間悩んでいました。
そして、ついに、書斎鋏、布切り鋏の使用を断念。
残念ながら、現在出回っている、ほとんどの布切り鋏は、鋏全体が鋼でできているため、重いのです。
確かに、刃物メーカーの鋼の包丁や鋏は、日本刀の製造技術を引き継いでいるので、切れ味がいい。
リビングには、NEVANONのほかに、木屋の爪切りを置いているのですが、切れ味のよさと、「パキッ!」という小気味いい音は、爪を切る時の楽しみ。
しかし、耐用年数10年……
10年先の私は50代。
今よりも手先の動きが鈍くなっているでしょう。
今、「重い」と感じる鋏は10年後、さらに、その重さがストレスになる。
……そうなると、切れ味は鋼に劣りますが、軽くて手入れが楽なステンレスですね。
年末、繁華街に出たついでに、百貨店の台所用品売り場へ。
その一角に鋏ばかりを集めてショーケースに入れた鋏コーナーがありました。
台所鋏、爪切り、盆栽鋏、華道鋏、布切り鋏、カニ鋏、爪切り、髪切り鋏、事務用鋏……
ありとあらゆる種類の鋏が、箱入りの状態で、ずらりと並ぶさまは壮観。
思わず見入っていると後ろから、男性の声がしました。
「何か、お探しですか? よろしければ、お出ししますよ」
ふりむくと、年配の男性店員が、にこにこしていました。
「できれば、軽い鋏で、主に紙を切る鋏を探していますが……やっぱり、布切り鋏で、紙切っちゃいけないわけですか?」
「元々布を切るための上質な刃の鋏ですから、もちろん、紙は簡単に切れます。でも、羅紗切り鋏は、布の厚みや硬さに合わせてネジを調整してあるので、紙を切るうちに、噛み合わせがズレます。紙をしばらく切って、その鋏で布を切ろうとすると、切れにくいのは、そのせいです。それに最近は、特殊な表面加工をした紙が多いので、刃そのものを傷めることもあります。ですから、紙と布、それぞれの鋏を持たれた方がいいと思いますよ」
考えてみると、この10年、羅紗切り鋏で布を切る回数は、数えるほどしかありませんでした。
今回は、紙切り専用にしてみようかな。
「事務用でしたら、庄三郎か丸章など、いかがでしょうか。どちらも、ステンレス刃ですが、切れ味は、かなりよいです。どうぞ」
店員は、箱の中から鋏を出してくれました。
庄三郎はさみ『ホームスクーリング』と丸章工業『SILKY(ステンレス刃)』。
フッ素コーティングした同型の『SILKY NEVANON』を使い慣れているせいか、『SILKY』の方が、手になじみます。
安易な気もしますが、書斎用鋏はグッドデザイン賞受賞の『SILKY』に決定。
それから、メンテナンスについて。素人が鋏の刃を研ぐのは難しく、鋏の切れが悪くなったら、アルミホイルを切る、ネジの調整程度にとどめた方がいいとのアドバイスも。
……やっぱり、専門家の話を聞いてみるものですね。
一方、台所の鋏。キッチン鋏の何が嫌か……突きつめてみると、その重さと手入れの面倒さ。
どういうわけか、キッチン鋏は重いものが多いのです。
実は木屋の『エーデルワイス』を台所鋏候補に考えていたのですが、実際に持たせてもらったら、意外に重く断念。
それに、キッチン鋏は手入れが大変。
例えば、魚をおろしたり、葱を刻んだりするたびに、鋏を分解して洗うわけですが、胡桃割りや栓抜きなどがついているために、凹凸が多く、かなり丁寧に洗わなければ、鋏に汚れが残ります。
包丁の方が洗うのは簡単。
もっとも、我が家の包丁は堺の和包丁。
洗った後は丁寧に水気をとって保管。
時々夫が研ぎ、年に一度は研ぎ屋に出す……油断すると、包丁にすねられて、錆が出てきたりしますが、鋼の切れ味は捨てがたい。
包丁だけでも大変なのに、そこにキッチン鋏の面倒な手入れが加わる……嫌だなあ。
でも、食品開封専用にしても、レトルト食品を開封すると、刃が汚れるので、分解して洗う必要が出てくる……やっぱり、分解できるキッチン鋏か。
結局、台所の鋏は、VICTORINOX『キッチンハサミ』。
スイスのビクトリノックス社は、ワインオープナー、のこぎりやドライバーがついた『オフィサーナイフ』が有名ですが、キッチンツールも充実しています。
ステンレス刃で持ち手がプラスチック、比較的軽いこと。
構造がシンプルで、分解して洗いやすいことが決め手になりました。
……というわけで、2年がかりで、今回のハサミ計画はとりあえず完了。やれやれ。
今後、高齢化社会が進む日本。
手先が器用でない高齢者が増えますから、鋏メーカーは、鋏の刃の切れ味を高めるとともに、「安全な鋏」「力を入れずに切れる鋏」「握りやすい鋏」などのユニバーサルデザインと、鋏の軽量化の技術開発をせざるをえないと思います。
10年先、再びハサミ計画がスタートする時、私たちの身の回りには、どんな鋏が登場しているのでしょうか。
ちょっと楽しみですね。
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2008年01月05日
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