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2005年10月11日

武道と護身(前編) 生兵法

最近は物騒な事件が多く、護身のために武道や格闘技を習う人が増えています。たまにテレビで新しい護身術の紹介をやっているのを、夫と二人で見ることがありますが……なんだかねえ。

この前は、若い女性が主催する『護身武道系エクササイズ』特集でした。
「武道の動きを取り入れて、美しくスリムになり、しかも護身ができる」そうです。

若い美人インストラクターが、しなやかに腰をくねらせ、鮮やかな上段蹴りを披露しました。
「あかんわ」
夫と私は同時に口走ってしまい、顔を見合わせました。

「動きが遅すぎる。これだったら、相手によけられてしまうよ」
私も上段蹴りはできるけれど、足を高く上げる蹴りは、かなり早くなくてはいけない。
しかも蹴った後、次の動きに入るのに時間がかかるので、実戦で使ったことはありません。

「お前の意見も当たっとるけど、この腰の動きがなあ」
「私も変な気がした。上半身だけ先に動いて、後から腰がついていく蹴りは見たことない」

夫は溜息をつきました。
「確かに、腰をひねる動きはウエストしまるかもしれんが……あと3年、この動き続けたら、この人、腰いわすで」

武道は歴史が長い分、ケガの経験が積み重なって、体を痛めるので「やってはいけない」動きがあります。
そして、武道歴の長い人ほど、人体の弱点や稽古中にケガをした時の応急処置など、医学的な知識を持っていることが多いのです。

よく女性から「合気道はやせますか?」と訊かれることがありますが、私の場合、ふくらはぎや太ももに筋肉がついてしまい、1キロ体重が増えました。
「合気道で筋肉がついて引き締まりますよ」とは言えますが「やせます」とは言えません。

画面では、練習生の女性たちが、大声を出しながら、サンドバッグに腕だけで腰を使わないパンチ(腕が引き締まるらしいけど、実際に相手にダメージを与えるのは不可能)をしてみせたり、ボクシングのような跳ねるフットワークの練習をしたり。

「ストレス解消になるし、スリムで健康になれるし、護身術も身につくので最高です」
インタビューを受けた女性が得意げに語るので、見ていて気の毒になりました。


私は子供の頃から、やたらにケンカばかりする生活を送ってきたので、身を守るために、かなりの数の武道や護身術の本を読み、また実践してきました。
でも、護身術の本には「どう考えても無理」なことが、多く書かれています。

例えば「相手に後ろから抱きつかれた場合、ハイヒールの踵で力一杯相手の足を踏む」(相手を振りほどいても、ハイヒールを履いていたら、逆上した相手にすぐに追いつかれる)
「ナイフを持った相手に、自分の上着を脱いでナイフに巻きつけ、からめとる」(上着を脱いでる間に相手は刺しにくるでしょう)

……頭の中で考えただけの技術が多いこと。

実戦の世界、特にストリートファイトでは、護身術、武道、格闘技などのマニュアルにない状況がよく起こります。

夫の経験では、街中でヤクザ風の男と口論になり、相手がいきなりピストルを抜いて、至近距離で発砲しようとしたケース。
(通報で警察が駆けつけ、夫もヤクザも散り散りになって逃げたので、後のことはわからないそうです。夫が逃げたのは、空手の有段者の拳は「凶器」とみなされていて、ケンカで警察に捕まると面倒なことになるから)

私の経験では、道を歩いていて、曲がり角から突然、自転車に乗った若い男が現れ、わけのわからぬことをわめきながら、金属バットを振り上げて、猛スピードで突っ込んできたケース。
(これは私の護身技術の最先端、数百メートル先の敵の位置を察知する技術、自分のいる空間そのものを凶器として使う技術を駆使して、なんとか切り抜けました)

どんなに武道や格闘技をやっていても、「想定外の事態」はあるので、自分の実力を過信して、油断しないようにしましょう。


……次回に続く……



ラベル:武道 合気道
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