「最強の護身術は何か?」そう尋ねられたら、私はためらうことなく「ピストル」と答えます。
実戦の場合、こちらが素手で相手が武器を持つ、または相手が複数ということもよくあります。
しかも、相手は、自分より弱い者を選んで、面白半分に傷つけようというのですから。
護身の世界には「正々堂々」という言葉はありません。
身を守るために常に警戒し、「人を見れば泥棒と思え」と疑う。
猜疑心は不信と偏見を呼び、「犯罪の芽を摘む」という名目で、自分の理解できないものを排除する。
護身の行き着く先は「他者を認めない世界」……でも、私はそれは何か違うと思います。
私は喘息で2歳の時、「この子は二十歳まで生きられない」と医者に宣告されました。
その当時は「喘息患者は心が弱い」という迷信がまかり通り、「喘息の子供」イコール「悪い子」でした。
「喘息の人間はクズだ」……心ない教師の一言で、学校は戦場になりました。
私は身を守るために、護身術や格闘技や武道の本を読んで、学校へ行って実践する。……そんな毎日になりました。
なんでこんなことになってしまったんだろう……と嘆きながら。
一度でも負ければ、次からは1対40、クラス全部が敵になる。
……負けるぐらいなら、刺し違えてでも相手を殺せ。体を傷つけるより心を殺せ……
自分からは攻撃せず、しかし一度攻撃を受ければ、殺人鬼の形相で笑いながら、相手が恐怖で戦意を失うまで、手段を選ばず執拗に反撃する。
相手が恐怖で戦闘不能になったところで、反撃は終了。
……そんな護身スタイルが出来上がりました。
一度、トラウマになるほど精神的にダメージを受けた相手は、二度と私を攻撃できないし、それを見た周りの人間も、私を簡単に攻撃できない。……悲しい生活の知恵でした。
今考えてみると、相手の軽い悪意に対して、今までの嫌がらせの恨み、思うように体が動かない自分への憎しみ、二十歳から先の未来がない絶望など、あらゆる「負のエネルギー」をまとめて相手にぶつけていたのですから、かなりひどいことをしたと反省しています。
偏見と憎しみと暴力の連鎖は、中3の担任に断ち切られるまで何年も続きました。
でも、その頃には「誰も近づいてこなければいいのに。それなら平和なのに」と本気で思うようになっていました。
「戦わずにすむ方法はないか?」……結論は、「敵に出会う前に敵に気づいて避ける」でした。
そのために、ユングなどの心理学書から怪しげな超能力本まで、あらゆる「直感を磨く」関係の本を読み、自己流でトレーニングを積みました。
おかげで、直感をレーダーのように使うことができるようになり、実際に難を避けられたことが何度もあります。
でも、いつも不安が背中に貼りついている。
体力もなく、きちんとした師につけず、つぎはぎの知識でできた我流の護身技術。
いつもぴりぴりしている私は、武道をやっている人の明朗さや落ち着いた様子を見るたびに、本当にうらやましかったです。
そして、ある時、実戦で合気道に完敗することになります。(詳しくは武道系コラム:『合気道へ(前編) 武道13段の男』をご覧ください)
合気道をはじめて1年ほどたった時、夫に言われました。
「合気道するようになってから、だいぶ丸うなったな」
「そう?」
「お前と最初出会った時、お前は殺気で結界作っとったからな。俺はえらいもん見た、とんでもない女や、そう思ったわ」
「言っておくけど、自分から仕掛けたことは一度もないよ」
「そりゃ、見てわかった。普通、あれだけ殺気、マイナスエネルギー持っとったら、結界張るなんてまどろっこしいことせんわ。周りの人間に手当たりしだいひどいことする方が、手っ取り早いはずやねん」
夫の話では、空手では、いじめられっ子が強くなろうとして入門することがよくあり、私からは、そういう子供に似た雰囲気を感じたそうです。
それなのに動きに隙がなくて、鋭い殺気がある。
しかも、強烈な負のエネルギーを帯びているのに、なぜかそれほど歪んでいない。
面白いから手元に置いてみたいと思って求婚したそうです。
どうやら夫は、最初から私を武道家に育てたかったらしいです。
私の第一印象が、空手と剣道の指導員経験のある夫の「教育魂」を刺激してしまったのでしょう。
「合気道続けとったら、そのうち、お前の人嫌いもマシになるやろ」
夫はそう言います。
確かに合気道の『和』の精神は、私の憧れですが……まだまだ遥か彼方です。
……次回へ続く……
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2005年10月15日
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