丹田呼吸法のことを調べていた時に見つけた『佐々木合気道研究所』サイトで、興味深い文献が二つ挙げられていました。
『「密息」で身体が変わる(中村明一著・新潮選書)』と『能に学ぶ身体技法(安田登著・ベースボール・マガジン社)』。
中村明一氏は、化学研究者から尺八奏者に転身された方。
安田登氏は下懸宝生流ワキ方能楽師で、アメリカのボディーワーク(整体)、ロルフィングの施術者(ロルファー)。
……尺八と能楽、お二人とも日本の伝統芸能に詳しく、しかも科学的視点もお持ちです。
最近、私の所属道場では、時々「相手の呼吸を読む稽古」をします。
受け(技をかけられる方)と取り(技をかける方)が一組で向き合って立つ。
まず、受けが片手を前に出し、取りが受けの肘の内側に軽く手をそえます。
受けがゆっくりと呼吸し、受けの吐く息が吸う息に変わる手前で、取りは受けの肘に力を加えて、受けの体勢を崩すという稽古。
「人間は息を吐ききって、吸う直前が一番弱くなります。そこを察知するように」と、師範はおっしゃられるのですが。
みんな、受けが息を吐いている最中に、力ずくで崩してしまう。
私は「呼吸がはっきりしない。もっと大きく息をしてくれなきゃ、わからないじゃないか」と叱られましたが、たぶん、喘息で呼吸量が人よりすくないので、呼吸を読み取りにくいのだと思います。
自分が相手の呼吸を読む側になった時、呼吸音を頼りに呼吸を読んでみましたが、「吐く息が吸う息に変わる瞬間」しか、察知できずに、タイミングがワンテンポ遅れてしまう。
「相手が息を吸う時に、肩が上がることが多いですが、武道家の中には、相手に自分の息を吸う瞬間を悟らせないように、逆に、肩を上げながら息を吐く人もいます。相手と一体になり、呼吸を読むことです」
……師範は、そうおっしゃるのですが。
つい、相手の肩や呼吸音の方に気をとられてしまいます。
呼吸を読むのは本当に難しい。
さて、『「密息」で身体が変わる』の著者、中村氏によると、呼吸法は、大きく分けて、4種類。
一般的な、息を吸う時に胸がふくらみ、吐く時に胸が収縮する胸式呼吸。
息を吸う時にお腹がふくらみ、吐く時にしぼむ腹式呼吸。
息を吸う時に胸がふくらんでお腹がへこみ、吐く時に胸が収縮してお腹がふくらむ逆腹式呼吸。
そして、息を吐く時も吸う時もお腹がふくらんだままの密息。
胸式呼吸は横隔膜を動かさず、肺だけをふくらませるので、息の量はすくないのですが、筋力を使わない分、呼吸するのに体力がいらない。
腹式呼吸は自然な呼吸法で、横隔膜を押し上げて瞬間的に大量の息を吐くことができますが、横隔膜とともに内蔵も動くので、ある意味の「不安定」な体勢が生まれ、息を吸う速度が遅くなる。
逆腹式呼吸は、私もやってみましたが、かなり意識的にやらないと難しい。
油断すると、すぐに腹式呼吸に戻ってしまいます。逆腹式呼吸は、ヨガなどで行なわれていて、安定した息を吐き、意識的に鍛えるのが難しい深層筋(人間の内臓付近にある筋肉)を鍛える効果があります。
そして、腰を落として、お腹をふくらませたまま、横隔膜を動かして大量の息を一瞬で吸い、鼻でゆっくりと吐いていく密息。
これは、肩で息をする、お腹をぺこぺこさせるなどの余分な動きをせずに、一度の呼吸量が増やすことができる。
身体のこわばりをとり、精神の集中力と安定性を高めるなどの効果もあります。
中村氏は尺八を安定した呼吸で吹く必要性から、普段は密息を使い、強い音を出す時には腹式呼吸を使う。
……音の響きや強弱などの目的によって呼吸法を使い分けておられます。
武道の場合……大声の気合いと同時に、一気に息を吐き出すために、腹式呼吸が使われることが多いようですが。
気合いを出さない武道、弓道と合気道はすこし違うようです。
弓道の丹田呼吸法の中で、精神を集中するために「お腹をふくらませたまま呼吸する」(『呼吸の謎』(前編))というものがありますが、実は、これが「密息」。
そして、細く長く息を吐き出す合気道も、この密息がよいかもしれません。
すくなくとも、私にとって、喘息の緩和には役立ちそうです。
密息ができれば、相手の呼吸を読む稽古でも、相手に呼吸を読まれにくくなるでしょう。
尺八を演奏……よい音を出すために、呼吸を極めた中村氏は、こう言われています。
『密息を絶対的なものと考えず、機会があれば、完全な腹式呼吸にもトライしてみてください。片方を知るということは、もう片方も知るということでもあります。そうすれば、私たちはひとつのものを見るときに、二つの見方・感じ方・考え方ができるようになるでしょう』
……なかなか含蓄のある言葉です。
この本には、密息のトレーニング方法の写真入り解説もあり、とても親切です。
興味のある方は、ぜひ、どうぞ。
ところで、このところ、合気道家の間でも注目されている「能」の動きと呼吸法。
これを科学的に解明したのが『能に学ぶ身体技法』ですが……
……次回へ続く……
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2008年02月16日
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中村氏と近い年代の尺八吹きです。彼の著作を真に受けるのは読者のご勝手ですが、尺八界での氏の評価は芳しくありません。
針小棒大、誇大妄想、ならまだ良い方です。一例を上げれば、博多のある古典尺八の先生のところへ押しかけていって一度吹き合わせ(一緒に曲を吹く)をしただけで、「秘伝を授かった」と吹聴しております。