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2008年02月19日

古傳(後編) 体軸

能楽……国文卒の私は、授業などで能を見る機会が多かったのに、なぜか、いつも途中で眠ってしまい、演目の最初から最後まで、まともに見たことがありません。が、能楽師、能を舞う人は、ものすごく大変らしい。

昔、友達の彼氏が能楽師で、「一番難しいのは、手を肩の高さまで上げて、ゆっくりと開く動作」という話を聞いたことがあります。

手を前に出し、ゆっくりと横へ開く……簡単そうに思えるのですが。
「これを1分以上かけてやる」そうなので、やってみると……かなりしんどい。
普段使わない筋肉を使うらしく、肩や背中の筋肉がつりました。

能楽師の装束は10キロほどあるそうですが、能楽師は、その重たい衣装を着て、ゆっくりと優雅に舞い、しかも、突然天高く飛び上がったりします。
しかも、高齢になっても衰えない。

……能の動きの秘密は、深層筋(人体の内蔵や骨の近くにある筋肉)を使って、合理的に動いていること。
能楽師でロルファーでもある安田登氏は『能に学ぶ身体技法』に、そう書かれています。

安田氏のご専門、アメリカの整体技術、ロルフィングが扱うのは筋膜。
硬くなった組織をゆるめ、表層の筋肉を使いながら、イメージで深層筋を目覚めさせる。
バラバラだった体の各部を統合し、最終的には、自分の姿勢や、自分の動きを自分自身で選択できることをめざす……というもの。

ふーん。ロルフィングでは、「体は脳の所有物」なんだ。
私の意思(脳)と私の体の意思(自己防御本能)が、並列状態で使っている私の体には、なじまない技術ですね。

この本は写真や図解も豊富。
6段階で、能の身体技法を身につけていきます。

1.大腰筋(深層筋、腰から太ももの付け根に伸びる筋肉)をイメージで活性化。

2.頭から足裏まで一本の軸があるとイメージ。丹田(下腹)に重心を置き、上半身は脱力。
天から見えない糸で引き上げられている感覚で立つ。

3.大腰筋を使うすり足。股関節から足を出す。
内転筋(太股の内側の筋肉)を使って歩み、つま先を上げ下げして深層底屈筋(ふくらはぎの裏にある筋肉)を活性化。

4.腕を前に出す動作の指シ込ミ、出した腕を開くヒラキで、前鋸筋(肋骨の後ろ半分をおおう深層筋)と菱形筋(肩甲骨の下にある深層筋)を活性化。

5.呼吸横隔膜と肛門付近にある骨盤底横隔膜、息を吸う時に、上下の横隔膜をふくらます腹式呼吸。

6.大きな声を出して、大腰筋を活性化させる。

昔の日本人の動作を引き継ぐ能の動きを身につけることで、大腰筋……足を上げる、下ろす、歩く、走る、跳ぶなど、「体の移動」に関わる筋肉を活性化することを重視している本ですが……。
疑問が残ります。

能の身体技法で、すべての深層筋が活性化できるのか?

実戦……「敵を倒すには?」という「一つの問い」に対して、武道や格闘技の流派の数だけ、技の数だけ「無数の正解」がある世界。

ひょっとすると、今も、そんな世界に身を置いているかもしれない私には、「能の身体技法さえ身につければ、スポーツや武道の上達も思いのまま」と言わんばかりの、アメリカ式の明快な論理展開には違和感があります。

この本で私は、初めて人体に横隔膜が二つあると知りました。
呼吸に使われる肺の下にある横隔膜は知っていましたが、骨盤付近に、もう一つの横隔膜がある……???

夫(武道13段)に、「骨盤にも横隔膜があるの?」と訊いてみました。

「内蔵全体は、一つの膜でおおわれとるから、肛門のへんの腹膜を「横隔膜」と言っても、まあ、間違いではないわな」

夫は、『能に学ぶ身体技法』を、ぱらぱらとめくった後、難しい顔をしました。

「まさか、これをそのまま、やる気やないやろうな。……お前、背骨はずれとるんやから、こんなもん、まともにやったら、えらいことになるで」
「背骨はずれてるって、人聞きの悪いこといいなや。腰椎分離症って言うてよね」

「背骨がはずれて、ぶらぶら動いとるわけやろ。ヘルニアになったら、どないするねん」
「……まあ、そりゃ、そうだけど」

腰椎分離症……背骨の腰椎の一部が分離する病気。
分離した骨が脊髄を圧迫すると、しびれや痛みを伴う椎間板ヘルニアなどを引き起こします。

私の場合は先天性。
しかも腰椎以外にも2箇所分離しています。
「重いものを持つこと」「長時間の立ち仕事や正座、かがむ動作」「体を反るヨガなどの運動」に、ドクターストップがかかっているのです。

以前、ヨガ歴10年以上の女性から、突然「あなた、背骨に生まれつきの欠陥があるでしょう。その姿勢のよさは不自然だわ」と指摘されて驚いたことがあります。

確かに私は、いつも背筋がぴんと伸びた状態。
猫背や体をそらす姿勢の方がつらい。
ただ、合気道の場合は「姿勢がよいことは正しい」とされているので、助かります。

「そのまま参考にできるのは、立ち方ぐらいかな」
「まあ、丹田意識して、体軸をイメージして、重心を下目にして、肩に力を抜いて立つのは、武道の基本やから、ええけど。能はあくまで能やねんから。武道とは違う」 
「わかってる。それに、腹式呼吸より密息の方が、合気道には向いてると思うし」

骨盤底横隔膜呼吸トレーニングの準備運動、「ストローを加えたまま5分間呼吸する」「空のペットボトルをくわえて呼吸する」は、喘息で呼吸量が成人の7割しかない私には無理。

夫は厳しい表情を見せました。

「お前、最近、本ばっかり読んどるけど。何をそんなにあせる?」
「あせる……まあ、あせってるかもしれん。初段になって、ようやく丹田呼吸法の鍵が見つかったんで、早く、喘息に効く丹田呼吸法身につけたいし、合気道もうまくなりたいし。できるだけ、ヒントがたくさんほしいねん」

「俺も、上達したくて本ぎょうさん読んだから、気持ちはわからんでもない。お前の話聞く限りでは、お前の師範は、細かいこと言わんと、それぞれの合気道尊重する人みたいやからな。そやけど、頭でっかちはあかん。もっと稽古楽しまんと」

「きつい稽古の後、晩に発作起こすし。他の人みたいに「ほんとに合気道の稽古って楽しいわ。あはは」とはいかんねん。体調やら次の日の仕事量やら、寒冷前線(喘息が悪化する)やら最低気温やら考えて、運動量自分で調整せんと、稽古続けられへんし」

「調整したらええやんか。そやけど、そんなに思いつめんと、気楽に稽古したらええねん」

夫は穏やかに言いました。

他の人とは違って、「無心に稽古を楽しむ」ことはできないかもしれないけれど、もうすこし、私なりに、稽古そのものを楽しむ方法を考えたいと思います。 
ラベル:合気道 武道
posted by ゆか at 13:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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