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2008年03月18日

AIKI(後編) 合気をかける

では、『AIKI』の上映開始。
映画の冒頭に大東流の手の型が登場したとたん、大東流合気柔術2段と合気道初段は、同時に叫びました。

「あっ! 手が違う!」
「おお、合気上げか! 懐かしい!」

合気道の手刀は手の指を開いた形ですが、大東流は親指と小指が、掌のやや内側に入ります。
そして、相手につかまれた手首を下から上に振り上げて、相手を持ち上げるような動作……これが大東流の基本動作の一つ「合気上げ」なんだそうです。

『AIKI』の主人公、芦原太一(加藤晴彦)はボクサーでしたが、バイクの事故で半身不随に。
ボクシングの夢を断たれ、すさんだ生活をしていた太一ですが、たまたま見たのが、神社の奉納演武での大東流合気柔術の演武。

師範が地面に大の字に横たわり、その両手両足を押さえた弟子を、一瞬で吹き飛ばす技(四方固め投げ)の威力をまのあたりにした太一は、「これなら自分にもできるかもしれない」と、大東流合気柔術に入門を決意。

石橋凌が演じる大東流合気柔術の平石師範はサラリーマン。
市の施設を借りて稽古会を開き、「稽古後に酒を飲むのが楽しみ」という不思議な人。
六方会・岡本正剛師範がモデルだそうです。

ちなみに六方会の「六方」とは、天地前後左右。立体的な攻めに対する自由自在な身のこなしとの意味。

入門を許された太一は、自分の手首を、ぱっと自分でつかむ稽古からはじめます。

「あれは、大東流の基礎や。相手の手首を、がしっとつかまんと、技がかからんのや。俺も、あの稽古したけど、1週間したら、両手首が腫れあがったもんや」

夫が解説します。

手首をつかむ……私は、「小指を巻きつけるようにして、相手の手首をしっかりと持て」と指導されていますが、大東流の場合、小指より、親指と人差し指に力が入っているように思えます。
私たちの師範は「相手を誘って、自分の有利な位置で腕を持たせる」ことを強調されますが、大東流は積極的に相手を「つかみにいく」らしい。

車椅子に座ったまま、かかってきた門下生の手首をつかんだだけで、次々と投げる太一。

「合気投げに技をしぼったか。これやったら、車椅子でもできる」

夫は大きくうなずきました。

合気道では、基本的に、相手の間合いに入らないと技をかけられないのですが。
車椅子の状態では車輪が邪魔になってしまう。
どうやって技をかけるのか気になっていたのです。
なるほど。できる技から稽古すればいいんですね。

平石師範が、稽古後に、太一も含めた門下生たちと酒を飲むシーン。
ビールジョッキを持ち上げる動作を「合気上げ」、下げる動作を「合気下げ」と説明します。

「そうそう。合気上げと合気下げの説明としては、ええたとえやわ」

車椅子に道着姿の太一も交えて、上級者も初級者も共に同じ技をかけあう稽古風景。
所属道場で、足の不自由な有段者や目の不自由な有段者が、健康な有段者と楽しそうに稽古されている光景を思い出しました。

「なんか、合気道と似てるよね」
「俺は、入って最初の半月ほど、合気上げと合気下げばっかりやっとったからなあ。……六方会は、合気道に近い考え方する大東流かもしれん」

しかし、映画の中で頻繁に出てくるのは耳慣れない言葉……「合気をかける」。
しかも、合気をかけられた相手は、魔法にかかったように動けなくなる。不思議。

「合気道では、「相手の気に合わせて技をかける」けど。大東流では、「相手に合気をかけにいくもの」なの?」
「そうや。経絡を使うんや。なんやったら、今、ちょっと合気かけたろか?」
「えっ……あの、それは、また今度にしてくれる? とりあえず、映画の続き見たいし」

リビングで投げ飛ばされるのも困るので、なんとかうまくごまかしました。

平石師範の教え「肘は軽く」「動きに合わせて呼吸する」「相手を受け入れなければ技はかからない」は合気道と同じですが、「つかむ時は手を張る」は、合気道とは違うなあ。

しだいに、技が上達した太一でしたが、街で3人の不良に叩きのめされてしまいます。

「実戦で使えなければ、意味がないのでは?」と落ち込む太一に、平石師範は「かつて、私の師範は「正しい問いには、その中に答えが含まれている。迷うのは、問いの立て方が間違っているから」と言いました」と諭します。

……正しい問いには、その中に答えが含まれている。迷うのは、問いの立て方が間違っているから……
いい言葉ですね。

映画のクライマックス。
さらに修行を積んだ太一は、外国の皇太子主催の御前試合で、拳法家と対決。
車椅子を手足のように巧みに操り、拳法家が繰り出す蹴りや肘打ちを鮮やかにかわして、「合気」を使って拳法家を投げ飛ばす。
そして、師範から黒帯を締めることを許されるわけですが……。

これは、車椅子と一体になって動いた加藤晴彦がすごい。
「これが車椅子の動き?」と驚くような速さで、一見の価値があります。

『AIKI』は、デンマークの実在の車椅子武術家、オーレ・キングストン・イェンセンをモデルに作られた映画です。

下半身不随になった青年が、大東流合気柔術を通して「自分の可能性」を見つけ、生きる力を取り戻す。
映画の最初、どんよりと暗い目つきだった太一の、ラストシーンの明るい笑顔。
やっぱり武道っていいなあ。

結局、「合気道と大東流合気柔術は別の武道」と解釈するのが妥当な気がしますが……。

ところで、「武道系コラムでは、やたらに他武道の話が出てきますね」と時々言われます。
私自身、「合気道とは何か?」が、ものすごく気になるのですが。
「合気道の真髄」は、合気道一筋、何十年も続けてきた人でないと、わからないかもしれない。

護身……武道とは対極の世界から来た私にできることといえば、「歴史を通して合気道はどこから来て、どこへ行こうとしているのかを考察する」
「他武道と比較して合気道の輪郭を明らかにする」程度。

それでも、このコラムをがきっかけで合気道に興味を持つ方がおられたり、このコラムが合気道家の皆様の上達のヒントになったり、何かお役に立てればいいなと、いつも考えています。
posted by ゆか at 14:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最初AIKIを見た時は車椅子と健常者の違いによるのか合気道と大東流の違いなのかよく分かりませんでしたが、大東流として正確に描かれていたのですね。
今は別の武道でも源流は同じですので、違いに着目してAIKIを見てみます。
Posted by やまま at 2008年03月18日 17:30
合気道ねっとの掲示板の書き込みから,こちらのサイトを知って,1年以上前から拝見しています。私も昨年合気道初段をいただきました。
コラムに載っている本を読んだり,ここに書かれていることを参考に稽古しています。
今後も楽しみにしています。
Posted by sho at 2008年04月06日 21:15
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