では、『AIKI』の上映開始。
映画の冒頭に大東流の手の型が登場したとたん、大東流合気柔術2段と合気道初段は、同時に叫びました。
「あっ! 手が違う!」
「おお、合気上げか! 懐かしい!」
合気道の手刀は手の指を開いた形ですが、大東流は親指と小指が、掌のやや内側に入ります。
そして、相手につかまれた手首を下から上に振り上げて、相手を持ち上げるような動作……これが大東流の基本動作の一つ「合気上げ」なんだそうです。
『AIKI』の主人公、芦原太一(加藤晴彦)はボクサーでしたが、バイクの事故で半身不随に。
ボクシングの夢を断たれ、すさんだ生活をしていた太一ですが、たまたま見たのが、神社の奉納演武での大東流合気柔術の演武。
師範が地面に大の字に横たわり、その両手両足を押さえた弟子を、一瞬で吹き飛ばす技(四方固め投げ)の威力をまのあたりにした太一は、「これなら自分にもできるかもしれない」と、大東流合気柔術に入門を決意。
石橋凌が演じる大東流合気柔術の平石師範はサラリーマン。
市の施設を借りて稽古会を開き、「稽古後に酒を飲むのが楽しみ」という不思議な人。
六方会・岡本正剛師範がモデルだそうです。
ちなみに六方会の「六方」とは、天地前後左右。立体的な攻めに対する自由自在な身のこなしとの意味。
入門を許された太一は、自分の手首を、ぱっと自分でつかむ稽古からはじめます。
「あれは、大東流の基礎や。相手の手首を、がしっとつかまんと、技がかからんのや。俺も、あの稽古したけど、1週間したら、両手首が腫れあがったもんや」
夫が解説します。
手首をつかむ……私は、「小指を巻きつけるようにして、相手の手首をしっかりと持て」と指導されていますが、大東流の場合、小指より、親指と人差し指に力が入っているように思えます。
私たちの師範は「相手を誘って、自分の有利な位置で腕を持たせる」ことを強調されますが、大東流は積極的に相手を「つかみにいく」らしい。
車椅子に座ったまま、かかってきた門下生の手首をつかんだだけで、次々と投げる太一。
「合気投げに技をしぼったか。これやったら、車椅子でもできる」
夫は大きくうなずきました。
合気道では、基本的に、相手の間合いに入らないと技をかけられないのですが。
車椅子の状態では車輪が邪魔になってしまう。
どうやって技をかけるのか気になっていたのです。
なるほど。できる技から稽古すればいいんですね。
平石師範が、稽古後に、太一も含めた門下生たちと酒を飲むシーン。
ビールジョッキを持ち上げる動作を「合気上げ」、下げる動作を「合気下げ」と説明します。
「そうそう。合気上げと合気下げの説明としては、ええたとえやわ」
車椅子に道着姿の太一も交えて、上級者も初級者も共に同じ技をかけあう稽古風景。
所属道場で、足の不自由な有段者や目の不自由な有段者が、健康な有段者と楽しそうに稽古されている光景を思い出しました。
「なんか、合気道と似てるよね」
「俺は、入って最初の半月ほど、合気上げと合気下げばっかりやっとったからなあ。……六方会は、合気道に近い考え方する大東流かもしれん」
しかし、映画の中で頻繁に出てくるのは耳慣れない言葉……「合気をかける」。
しかも、合気をかけられた相手は、魔法にかかったように動けなくなる。不思議。
「合気道では、「相手の気に合わせて技をかける」けど。大東流では、「相手に合気をかけにいくもの」なの?」
「そうや。経絡を使うんや。なんやったら、今、ちょっと合気かけたろか?」
「えっ……あの、それは、また今度にしてくれる? とりあえず、映画の続き見たいし」
リビングで投げ飛ばされるのも困るので、なんとかうまくごまかしました。
平石師範の教え「肘は軽く」「動きに合わせて呼吸する」「相手を受け入れなければ技はかからない」は合気道と同じですが、「つかむ時は手を張る」は、合気道とは違うなあ。
しだいに、技が上達した太一でしたが、街で3人の不良に叩きのめされてしまいます。
「実戦で使えなければ、意味がないのでは?」と落ち込む太一に、平石師範は「かつて、私の師範は「正しい問いには、その中に答えが含まれている。迷うのは、問いの立て方が間違っているから」と言いました」と諭します。
……正しい問いには、その中に答えが含まれている。迷うのは、問いの立て方が間違っているから……
いい言葉ですね。
映画のクライマックス。
さらに修行を積んだ太一は、外国の皇太子主催の御前試合で、拳法家と対決。
車椅子を手足のように巧みに操り、拳法家が繰り出す蹴りや肘打ちを鮮やかにかわして、「合気」を使って拳法家を投げ飛ばす。
そして、師範から黒帯を締めることを許されるわけですが……。
これは、車椅子と一体になって動いた加藤晴彦がすごい。
「これが車椅子の動き?」と驚くような速さで、一見の価値があります。
『AIKI』は、デンマークの実在の車椅子武術家、オーレ・キングストン・イェンセンをモデルに作られた映画です。
下半身不随になった青年が、大東流合気柔術を通して「自分の可能性」を見つけ、生きる力を取り戻す。
映画の最初、どんよりと暗い目つきだった太一の、ラストシーンの明るい笑顔。
やっぱり武道っていいなあ。
結局、「合気道と大東流合気柔術は別の武道」と解釈するのが妥当な気がしますが……。
ところで、「武道系コラムでは、やたらに他武道の話が出てきますね」と時々言われます。
私自身、「合気道とは何か?」が、ものすごく気になるのですが。
「合気道の真髄」は、合気道一筋、何十年も続けてきた人でないと、わからないかもしれない。
護身……武道とは対極の世界から来た私にできることといえば、「歴史を通して合気道はどこから来て、どこへ行こうとしているのかを考察する」
「他武道と比較して合気道の輪郭を明らかにする」程度。
それでも、このコラムをがきっかけで合気道に興味を持つ方がおられたり、このコラムが合気道家の皆様の上達のヒントになったり、何かお役に立てればいいなと、いつも考えています。
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2008年03月18日
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今は別の武道でも源流は同じですので、違いに着目してAIKIを見てみます。
コラムに載っている本を読んだり,ここに書かれていることを参考に稽古しています。
今後も楽しみにしています。