繁華街の百貨店、ハンズ、Loft……なぜか閑散とした手帳売り場。
フランクリン・プランナー手帳のプロモーションビデオの音声だけが、うつろに響いています。
もちろんネット文具店各社は、4月始まり手帳を売り出しているのですが、去年ほど活気がない。
1月始まり手帳の在庫も、まだあるありさま。
『ほぼ日刊イトイ新聞』サイトも、「4月始まりほぼ日手帳大売出し!!」の勢いがもないし……なんか妙だなあ。
ちなみに、ほぼ日手帳コーナーでは、4月始まり手帳をお勧めする人々として、小さい子共のいるお母さん、新社会人、学生、学校で働く人、新年度を迎える社会人、就職活動中の人を上げていますが……。
私だって、新年度を迎えるけれど。
仕事の年度末繁忙期は、必ず4月上旬までずれ込んでしまう。
4月1日を境に突然生活が変わるわけではないので。
毎年10月に、1月始まりのシステム手帳リフィルを買って1年使う生活をしていますが。
去年の10月の手帳売り場の活気は、その前の年と変わらなかったと思う。
去年の4月に手帳を買った人がみんな、秋に1月始まり手帳に切り替えたようでもないし。
原油価格の高騰で、紙製品も値上がりがはじまっていますが、手帳がいきなり倍の値段になったわけでもないし。
手帳ユーザー数が減ったのかなあ?
フランクリン・プランナーや夢手帳が現われ、手帳ブームがはじまって5年目。
ひょっとしたら、「夢を手帳に書けば叶う」というメーカーの魔法がとけはじめているのかも。
目標を設定し、細かいスケジュールを定めて、それに基づいて動いていく。
忙しければ忙しいほど充実しているような気がする。
確かに、私もそんな感覚に陥っていた時期があります。
忙しくて、目先のことで手一杯になれば、将来に対する漠然とした不安を感じなくてもすみますから。
「3年間、フランクリン・プランナー使ってみたけど、自分の夢は実現していない」と気がついた若者たちが多いのかもしれません。
それとも「手で字を書くこと、手帳に記入することそのものが億劫」とか……。
私も心あたりがあるのですが、文章を書く時、手で書くよりも、キーボードで打つ方が気楽なのですよ。
下手な自分の字が嫌いということもあるのですが。
紙に書くと、簡単に消去できないし。
目の前に何も書いていない紙があって、「さあ、なんでも好きなことを書きなさいね」と言われたら、ちょっととまどうと思います。
実は、自分の今考えていることを紙に書くには、それなりの時間とエネルギーが必要です。
「単にスケジュール管理だったら携帯でいいや」という考え方も合理的ではあるのだけれど。
携帯にスケジュールを入力する方が、手帳に予定やアイデアを書くより気楽かもしれない。
しかも、携帯は手帳より小さくて軽く、多機能です。
ただ、「紙に書く」行為は、時に劇的な効果を発揮します。
2004年夏、義母が倒れ、私は単身、市の介護保険課に出向きました。
「介護保険の申請の手続きを教えてください」
そう言った私の目の前に出されたのは、A4の白紙。
窓口担当者が「誰が倒れたのか」「入院先」「家族の様子」「親族の援助は受けられるか」「現在仕事をしているか」など、一つ一つ細かな質問を重ね、その答えを紙に書いて、私と担当者がお互いに確認し合って話を進めていくと……。
私自身は漠然と「介護保険の手続きを知りたい」と介護保険課を訪ねたのですが。
意外なことに、私が本当に知りたかったのは「遠隔地にいる義母が倒れ、仕事しているし、親族の援助も望めないので、介護保険を申請したい。しかし、夫はパニック状態で申請に反対している。どうしたら夫を説得できるか?」という点でした。
「しんどいでしょうけど、仕事は絶対に辞めないでください。介護に専念したら虐待が起こる確率が高いです。男の人は大抵、親御さんが倒れるとパニックになります。でも、半月ほどすると介護保険申請を考えはじめますから、もうすこし待ってください」
それが担当者の答え。
介護相談に来る人のほとんどが、半狂乱状態で意味不明なことを窓口に訴えるため、カウンセラーの指導で、相談者と担当者が、相談内容を一つ一つ紙に書き、確認しながら相談を進めるマニュアルを作成したのだそうです。
「これまで相談に来た人の中で、一番若く、一番冷静な人ですね。あなたがしっかりしているから、大丈夫ですよ」と、担当者にほめられましたが……。
このマニュアルがなければ、たぶん、私も、見当はずれな答えを持ち帰って、もっと家庭が大混乱していただろうと思います。
というわけで、「手で字を書く」というのは大事なことなのですが、私もあまり手で字を書くのが好きではありません。
『書写の授業は楽しかったですか? なぜ楽しかった/楽しくなかったのでしょうか? 手で字を書くことは好きですか? 好きになるにはどうしたら良いでしょう? 字を書くことに自信がありますか?』……。
『上越教育大学押木研究室』サイト、書写教育がご専門の押木準教授の言葉は、ぐさりと胸に刺さります。
書写の授業は楽しかったですか?……大嫌いでした。
なぜ楽しかった/楽しくなかったのでしょうか?……毛筆は墨をこぼし、ペン習字は力余ってペン先を二つに割ってしまい、よく先生に叱られたので大嫌いでした。
手で字を書くことは好きですか?……嫌いです。字が下手なので。
好きになるにはどうしたら良いでしょう?……筆圧が、あまり影響しない油性ボールペンや6B鉛筆で字を書くこと。そして、もっと字がきれいになれたらいいと思います。
字を書くことに自信がありますか?……ありません。冠婚葬祭の芳名帳などで、自分の字の汚さが恥ずかしいので、せめて、自分の名前と住所と数字は、きれいに書きたいです。
結論。
私の場合、「筆圧が高くても書きやすい鉛筆か油性ボールペンを使い、自分の住所氏名数字をきれいに書ければ、手で字を書くことに抵抗がなくなる」
……解決。
ところで、最近読んだ『NOTE & DIARY Stylebook vol.2(エイ出版)』は、美しい写真でノートや手帳、メモなどの楽しい使い方を紹介した本。
今回は、紙そのものの書き味の比較や、旅行、料理、ワインなど、分野別に分かれたライフスタイル・ノートの紹介。
繊細な模様の便箋、瀟洒な和綴じのノートなどなど……。
しばし、夢見心地でページをめくっていたのですが……。
「実用品だったノートや手帳は、万年筆のように「趣味の雑貨」になりつつあるのではないか」
そんな思いが頭の中をかすめ、不安になりました。
せっかく、多彩で良質な文具が豊富に、しかも割安で出回っていて、自分の好みに合った紙、ノート、メモ、手帳があって、好みの筆記具を選ぶこともできるのですから。
「自己実現ツール」の枠をはずして、もっと気楽に手帳を使えたらいいなと思います。
ラベル:手帳
後者としては一連の夢手帳があるわけですが、前者の流れをうまくとらえたのがあの、ほぼ日手帳なのではないかと考えています。