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2005年11月12日

隙あり!(後編) 自由技の難儀

「後ろから抱きつかれて刃物を首に突きつけられた時の……はずし方の技がよくわからないんですけど」私が3級になったばかりの頃、5級の白帯女性から相談がありました。
2段の若者に教えてもらうことになって、後稽古(稽古が終わって掃除の後、しばらく自由に道場で稽古していい時間がある)で、やってみることになりました。

彼女が後ろから私の首に右腕を巻きつける。
右手で木製の短刀を私の首に突きつけ、左手で私の手首をつかみました。
さて、どうしたらいいのか。私は考え込みました。

「こんな間抜けな目にあったことないから。……えーっと、どうしたもんでしょうか?」
「そんなん言うてると、刺されますよ」
彼女の短刀が私の首にぴしゃぴしゃと当たります。

私は若者に尋ねました。
「こういう時、後頭部で相手の顔面に頭突きしたり、肘で脇腹を突いたり、相手の足の甲を踵で踏みつけたり……しちゃいけないんですよね」
「そんなんやめてください」
彼女は泣きそうな声を出しました。

「あかんあかん。これは護身とちゃうねんから。合気道の技でやらんと。どうも君は乱暴でいかんなあ」
2段の若者は腕組みをしたまま難しい顔ををしました。
彼は子供の頃から合気道を続けていて、他の武道にも詳しい人。

「……えーと。どうしようかな」
「どうしよう、なんて言うてる場合ですか? ほれほれ」
彼女の短刀が、ちくちくと首に当たります。
短刀を突きつけられたまま考え込んでいる私に、見かねた若者は助け舟を出しました。

「後ろ両手取り三教(相手に後ろから首を絞められた状態で、一瞬体を屈めて相手の体勢を崩し、相手の掌をつかみ、ひねりあげる形でかける関節技)使うたらいいやんか」
「おおっ! そうか!」
私は彼女に後ろ両手取り三教をかけて、彼女から短刀を取りあげました。

「君も、もうじき茶帯なんやから。もうちょっと、しっかりせんとあかんで」
「すみません」
若者に叱られてしまいましたが、1級になった今も、この「自由技」が苦手。

合気道の稽古は大抵の場合、「この時間はこの技」と、稽古する技が決まっているのですが、たまに「正面突きから色々な技をやってみよう」と、師範がおっしゃることがあります。

でも、この「色々な技」というのは「合気道の技限定」という意味で、相手が拳で突いてきたからといって、いきなり回し蹴りを相手に食らわせたり、腕をつかんで背負い投げし、4の字固めやキャメル・クラッチをかけ……たりしてはいけません。
とっさに思い浮かぶ技が少なくて、いつも苦労しています。


ところで私たちの道場では、稽古の後、解散する時に、「ありがとうございました」と稽古をつけてもらった相手に一人ずつ座礼をしていきます。

ある上級者の若者と座礼としている最中、突然彼の手刀が私の頭に飛んできました。

「ちぃっ!」
私の体が勝手にバネのように弾けて、正座して両手を畳についている状態から一歩踏み出して、左の平拳で彼の手刀を払いのけ……

はっと我に返った私は、動きかけていた迎撃の右の平拳をあわてて止めました。
殺人鬼のような形相で笑っているのが自分でもわかります。

合気道をはじめる前に、夫から「組み手の相手は仲間やねんから、相手が拳で突いてきたからいうて、殺人鬼みたいな顔で応戦して、怖がらせたりしたらあかんで」と念を押されていたのに……

しかも、正座の状態で相手が手刀で頭を狙ってきたのに、左の平拳で払って右の平拳で相手の顔面を狙おうとしたり……空手や拳法などの打撃系武道なら、この対応で正解なのですが、合気道の場合は「座技正面打ち一教(相手の手刀を、こちらも手刀で受け流し、腕を押さえて関節技をかけて取り押さえる)」が正解です。

「……えーっと。……すみません」
「いやいや。話には聞いていましたが、さすがですね」
若者は日焼けした顔に、不敵な笑みを浮かべました。

「どうです。僕らと一緒に居合もやりませんか。それだけの反射神経があれば、段狙えますよ」
元々合気道は、刀を持った相手を素手で取り押さえる「柔術」から発展した武道。
より深く刀の動きを理解するために、稽古熱心な若者たちは、合気道と平行して居合道も習っているのです。
お誘いはありがたいのですが、私は喘息持ちで合気道の稽古に通うのが精一杯。
残念ながら居合の話は辞退しました。

なんだか武道の稽古らしくない道場の光景かもしれませんが、合気道の開祖植芝盛平翁が「愉快に稽古せよ」とおっしゃった通り、私たちはリラックスした稽古を心がけているのです。
posted by ゆか at 11:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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