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2005年11月15日

ご近所商売?

ここ数年、私の住む自治体では、地元密着型のベンチャー・ビジネスを育てることに力を入れていて、起業家を育てるための専門のインキュベーション・センターがあります。前から「起業」には興味があったので、ふらりと立ち寄ってみました。

インキュベーション・センターは「起業」のイメージとは正反対の、幽霊が出てきそうな古く陰気な建物で、昔の公民館を再利用したもの。

中は薄暗く、しんと静まりかえっていて誰もいない。
黴くさい匂いが鼻をつきます。
ひび割れだらけの壁に市のイベントのポスターが貼られ、受付の机の上には紙でできた名札とノート。
「来館者は氏名連絡先を記入し、名札に名前を書いて胸につけてください」とありますが、起業家どころか係員さえいないのでは、どうしようもありません。

突然後ろから「何をやってるんですか!」と大声が響きました。
ふりむくとTシャツとジーンズ姿の青年が、ドアを背にして立っています。

私は青年に「はじめまして。起業に興味があるので立ち寄ってみました」と、取材用名刺を渡しました。
青年は私の名刺を見て、一瞬ぎょっとした後、横柄な口調で言いました。
「僕は留守番を頼まれた者で、名刺は持っていません。ここのサイトは見ましたか?」

「いいえ。サイトを見るより、現地で直接、担当者にお話を伺う方がいいと思いましたから。ここでは、どんな事業が行われているのでしょうか?」
「社交ダンスを通して交流するサークルとか、老人施設に弁当を届けるサービスとか……」

「それは、市民団体やNPOとは違うものですか?」
「入居条件は『地域密着型の企業を作ろうとする個人』です。月1万円でブースが1つ借りられて、月に一度、入居者が集まって会合があります。条件が合えば融資もあります」

「会合は、市場調査とか経営分析とか、資金繰りの相談ですか?」
「今は、ほとんどホームページ作りです。情報発信が一番大事でしょう」

「ところで今、軌道に乗っているのは、どんな業種ですか?」
この質問を聞いた途端、青年の顔はこわばりました。
「サイトを見ていないんなら、話になりませんね。サイトを見てから、来てください!」
怒鳴りつけられて、結局、納得がいかないまま、私は家に帰りました。

この施設のサイトを見ると、8割増しぐらいに見栄えがよく作られている。
私が出会った青年は、なんだかよくわからないカタカナ職業の起業家だったらしい。

でも、あの時、あの場所で私と出会ったということは、すでに彼は起業家として「負け」でしょう。
事業をやっていくには、街に出て実際に人の動きを観察して、自分のビジネスの需要を推測したり、飛び込み営業してみたり、資金調達に奔走したり……パソコンに向かうだけではどうにもならない部分があります。

ちなみに、この施設、年間数千万の赤字を出しながら、全然企業を育てられずに問題になっていますが、「将来法人税をとれる」との皮算用で、市は続けていく方針です。

コミュニティ・ビジネスに成功した起業家の本を読んでみましたが、どうも納得いかない。

「インターネットを駆使せよ」というくせに、なぜ商圏を地域に限定するのか?
どうして「全国制覇」とか「世界征服」とか、大きな夢を持ってはいけないのか?

巻末資料に、自治体の補助金申請や講演会申し込み手続きのことが、長々と書いてあるところをみると、コミュニティ・ビジネスの本当の目的は「商売の成功」ではないのかもしれません。

何かいびつな感じがします。


posted by ゆか at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常コラム | 更新情報をチェックする
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