原油価格高騰を背景に、莫大な資金(オイル・マネー)で世界経済を操っている人々。
日焼けした彫りの深い顔立ち。
濃い髭と不敵な笑み。
頭に白い布を被り、両手に金の指輪がぎっしり。
……『アラビアンナイト』のイメージしか浮かばない。
著者は、日本と中東の企業取引の橋渡しをするJETRO(日本貿易振興機構)の元サウジアラビア・リヤド事務所長。
中東産油国のほとんどは王制。
王族が石油の富を独占し大富豪に。
その富を国民に分け与えていて、国民には納税の義務がなく、医療費も教育費も無料で、誰もが豊かな生活を送っている。
……異次元の世界だ。
著者はオイル・マネーを川の流れに例える。
源流が産油国のサウジアラビア、アブダビ、カタル、クウェイトなど。
自国で使いきれないオイル・マネーはヨルダンをはじめとするアラブ・イスラム諸国へ。
途中、ドバイなどの中継地点からアメリカ、アジア、ヨーロッパなどの国際金融市場に流れ込む。
さらに、「金儲けと、それを貧しい者に分け与えることは善」とするイスラム教の考え方を背景に、アブダビ投資庁、カタル投資庁、クウェイト投資公社などが、国際金融市場に直接参入し、オイル・マネーの積極運用をはじめている。
投資家を募るために、会計制度の透明性、財務諸表の公開などを義務づけられている日本や欧米の上場企業とは違い、中東の企業は、自力で資金調達できる株式非公開の同族企業。
透明な会計制度など必要がない。
まったく商習慣が違う中東の企業と日本や欧米の企業が、同じ国際金融市場で本格的に渡り合うとなると、大変なことになるだろう。
中東諸国の石油可採埋蔵量は、少ないサウジアラビアであと67年分、多いクウェイトで100年以上。
今のところ資源が枯渇する心配はないが、どの国も、将来を見越して、教育による人的資源開発に力を入れている。
これからのアラブ諸国。侮れない。
『アラブの大富豪』 前田高行 著 新潮新書
ラベル:原油価格
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