筆圧の強弱は、深刻な人にとっては深刻な問題。
『筆圧が高い(強い)』『筆圧が弱いの。』という筆圧専門のコミュニティまであって、筆圧の高い人々、筆圧の弱い人々が集まって、使いやすい筆記具について情報交換しています。
さて、『文房具』コミュニティに書き込まれた「筆圧が高いので、ペンだこが痛くなって困っています。疲れにくい筆記具はないでしょうか?」という質問に対し、さまざまな人がアドバイスをしているのですが……
「インクの出がいいハイブリット系のペン、パイロットHI−TECHシリーズの、ペン先太めがよろしいのでは?」
「人間工学に基づいて設計されたドクターグリップや、α−gelをグリップに採用したシャープペン。直径13ミリぐらいでは?」
「シャープペンの芯なら、三菱のHi−UNIは粘りがあって折れにくい」
「中指にかかる力を分散するぺんてる・エルゴノミックススタンダード」
「過度に筆圧がかかるのを防ぐ、ショックアブソーバーつき、BICのリアクション」
「ペンだこ対策に、軸が全面スポンジ製のゼブラ・ニューモティ」
……なるほど。皆さん工夫されていますねえ。
私は筆圧が高い上に不安定。
力余って紙に穴を開けたり、ペン習字用のペン先を割ったりする「文具クラッシャー」。
結局、愛用するのは、筆圧の不安定さに影響されにくい筆記具。
パイロットの油性ボールペン・CAVALIERと、三菱UNI硬筆書写用6B鉛筆(『Gマーク鉛筆とJマーク鉛筆』参照)だったりするのですが……。
実は、このトピックに驚くべき書き込みがあるのです。
「強い筆圧は腱鞘炎の元なので、弱い筆圧で書けるように練習した方がよいのでは」
同じ主張をされる方が何人かおられて、おすすめの筆記具は……万年筆。
うわっ! 万年筆かっ!
万年筆……高級品になると車1台と同じぐらいの値段がする、こだわりの筆記具。
とがったペン先を見るたびに、小学校時代の書道の授業の悪夢が蘇ります。
『手の重さ、ペンの重さで書くだけで、実は充分な筆圧が得られます。最初は物足りなさを感じるかもしれませんが、慣れればきっと快適になりますよ』
……うーむ。まあ、そうかもしれんけど。
強い筆圧に合わせた筆記具を探すのではなく、筆圧そのものを矯正する……思わぬ逆転の発想。
よく考えてみると、私は万年筆のことを、ほとんど知らない。
ちょうど図書館に『趣味の文具箱Vol.5 万年筆・ボールペン・シャープペン「最高の1本」を選ぶ・使う・遊ぶ』(エイ出版)があったので、さっそく借りてきました。
まず、ペン選びのチェックポイントから。
「さまざまな書き味が楽しめる万年筆」
「しっかり書け、インクの耐久性に優れたボールペン」
「軽い書き味で使う人を選ばないローラーボール(水性ボールペン)」
「機動力があり誰にもなじみ深いシャープペンシル」
……そうなんだ。
今まで、筆記具の特徴は、あまり考えてなかったな。
「どのブランドにするか?」「予算」……うーむ。悩むところですよね。
「用途別に選ぶ」……手帳リフィルの細罫に極細字用。
画数の多い字のための細字用。
6.5〜8ミリの普通罫レポート用紙に中字用。
太罫や無地の紙に太字用。
……なるほど。
「ペンのバランス」……ペンの「太さ」「長さ」「重さ」「重心の位置」で決まる握り心地のこと。
ペンの後ろを持って筆圧をかけずに書く人は、後ろに重心がある太軸。
ペンの前を持って書く筆圧の高い人は細軸。
……この「握り心地」には、我ながらうるさい方で、現在使っているボールペンは、やや前よりに重心がある細軸のもの。
その他、万年筆・ボールペン・シャープペンの仕組みの図解や、万年筆のペン先の製造法の紹介。
万年筆のインク選びや万年筆を使うのが楽しくなる上質の紙選び。
ペン先の改造やヴィンテージもの……万年筆は意外と楽しいものかも。
……と思っていたら……
『基本的な作法とお手入れ』……「ペン先」「胴軸」「キャップ」のパーツ別の注意。
「ペン先を机の端に置かない。キャップなしで置かない。万年筆を持った手を大きく振らない。書くとペン先が摩滅して書き癖がつくので、お店や他人の万年筆を勝手に使わない。常に自分の書き癖を研究する。できるだけ良質の紙を使う。水を入れたコップを横に置き、時々ペン先を水につけるとインクの出がよくなって書きやすい」。
「胴軸保護のため、ペンケースに入れる。3ヶ月に一度ペン先と胴軸を水かぬるま湯につけて内部の掃除。軸はシリコンクロスやセーム皮などで定期的に磨く」。
「キャップの開閉時は力を入れすぎない。内部は綿棒などで清潔に。筆記する時は、必ずキャップを万年筆のお尻につける」。
……ああ、しんど。
これでは「指、手、肩の力を抜いてリラックス。とにかく使い続けてみること」と言われてもですねえ……。
主要万年筆メーカー各社の商品の紹介もあります。
モンブラン、デュポン、ペリカン、ファーバーカステル、シェーファー、クロス、ウォーターマン、ラミー、セーラー……。
素材も多様で、ペン先は18金にプラチナメッキ、14金、ステンレスなど。
ペン軸は樹脂、プレキシグラス、木材、津軽塗り、銀などなど……。
多彩ですが、他の文具より「0」が一桁多いので、気軽に選ぶのは難しそう。
しかも、専門店に修理・調整に出している最中のことを考えると、「文具クラッシャー」の私の場合、同じ万年筆が2本以上必要になりますし。
1883年、アメリカのルイス・エドソン・ウォーターマンが発明した万年筆。
夏目漱石、北原白秋などの文豪たちに愛され続けた「知性と権威」の象徴のような筆記具。
『万年筆は自由な道具だ。規則も約束ごともない。使いたいときに、思ったように自由に使える。』
『趣味の文具箱』にはそう書いてありますが……。
方眼罫のレポート用紙に6B鉛筆で、罫線なんか無視して、手を真っ黒にしながら好き勝手に殴り書きしている野蛮な私には、万年筆の世界には、恐ろしく透明度の高いガラスでできた『万年筆道』のようなものがあるような気がしてなりません。
ラベル:万年筆