「来週が道主研鑽会? 年1回しかないんやろ。行ってこいや。お袋は俺がみといたる」
本来、在宅介護生活に入れば、合気道を続けることができないはずなのですが。
武道13段の夫の協力と、出稽古先の先生のご好意のおかげで、私は合気道を続けられています。
「来週の関西合同研鑽会、僕は出張で参加できないんですよ」
出稽古先の先生は残念そうな顔。
関西合同研鑽会は、年に一度、東京から道主先生をお招きして、関西の各道場の人々が一堂に会して行う一大イベントなのです。
「せっかくだから、出られたらどうですか。久しぶりに所属道場の皆さんと稽古するのも楽しいでしょうし。……では、そういうことで」
先生は、にこにこしながら続けました。
「今日は、来週の研鑽会に向けて特訓しましょう。厳しくいきますよ」
うわぁ。そうくるか。
「関西各地から色々な人が来るんですから。中には、力ずくで相手を動けなくしようとする人もいるかもしれない。今日は、基本の片手取り技(相手に片方の手首を取られてから展開する技)から、相手を崩す稽古を中心にやりますか。……○○さん、お願いします」
先生にうながされ、年配の有段者が進み出て、私の右手首をつかみました。
「では、○○さんを体の転換(一歩相手の側面に入って、体を反転させる動き)で、崩してみてください」
有段者に、がっちりと手首をつかまれた私は、身動きできません。
「力の弱い女性は、体の大きな男性にガチッとつかまれたら、動けなくなることが多いんです。でも、崩す方法は必ずあります」
先生は簡単に言いますが。
やっぱり、身動きできません。
「まず、落ち着いて肩の力を抜く。手首のつかまれている場所から、相手の力の方向を感じ取る。手だけじゃなくて、体全体の力を使って入り身(相手の側面に入る動き)……体ごと相手に近づくイメージがいいですね。そして転換する」
先生のアドバイス通りに動くと、割と簡単に年配の有段者の体勢を崩せました。
「ほうら。やればできるじゃないですか」
先生はうれしそう。
この日は、手首が痛くなるほど片手取り技を稽古しました。
「まあ、とりあえず、これで、ある程度相手は崩せるかもしれません。来週の研鑽会、楽しんできてください」
先生は笑顔で言いました。
研鑽会当日。
開会より早い時間に会場の武道館へ到着。
所属道場は、道主先生の接待と会場設営の役目をしているので、たぶん、同門の皆さんが集まっているでしょう。
武道館の柔道場には、道着袴姿の見慣れた顔の人たちが、椅子を組み立てたり、テーブルに白い布をかぶせたり、風呂敷に包んでいた合気道開祖、二代目道主の植芝吉祥丸先生、今の道主の植芝守央先生の写真を注意深く取り出したり。
みんな、忙しそうです。
「久しぶり。元気だった?」と声をかけてきたのは、同門の初老の有段者。
「私は元気なんですけど。義母が平日に週3回、透析に行った後、家でぐったりしてるんで、稽古に出られなくて」
「そりゃ、大変だね。お姑さんを大切にしなきゃいかんよ。今日は?」
「主人がみてくれてます。左手と右足がやや不自由で、狭心症持ちだから心配で。……ところで、何か、お手伝いできることはありませんか」
「大丈夫。もうほとんど終わってるから、気楽にしてて。今日は楽しんでいきなさい」
「ありがとうございます」
「道場の新年会もあるし、稽古に出られる時があったら、気軽においで。じゃあ、また」
初老の有段者は笑顔で去っていきました。
研鑽会開始時間が近づくにつれて、道着袴姿の人が増えていきます。
今年の参加団体は45団体、参加者は500人弱。
広い武道館の柔道場は、袴姿の有段者で埋め尽くされています。
最初に挨拶があり、準備体操の後、道主先生の見本の演武を全員で拝見しますが。
毎年のことながら、道主先生の周りは人が十重二十重に取り巻いていて、見るのが大変です。
「では、まず体の転換です。はじめ!」
道主先生の号令で、体の転換の稽古がはじまりました。
「お久しぶりです。お願いします」
近づいてきたのは茶帯(上級者)の若者。
なつかしいな。
同じ初心者クラスで稽古していた人。
2メートル近い長身。
手足が長くて腰を落とすのに苦労していたっけ。
「お久しぶりです。もう茶帯になられたんですね」
「いやあ。今年の秋に茶帯になったばかりで、僕なんか、まだまだで」
照れ笑いを浮かべる若者。
でも、体の回転軸や重心の位置は、随分安定してきています。
私が技をかける番になり、若者が私の右手首をつかみました。
私はあわてず、先週の稽古の通り、肩の力を抜いて、相手の力の方向を手首から読み取り、体全体で転換。……そうすると、私よりもはるかに体が大きい若者を、いともたやすく崩すことができました。
特訓の成果があったようです。
いくつかの技の稽古が終わって、「肩取り二教(相手の肩の道着をつかんだ状態から展開する関節技)」の稽古の時、「先輩、一緒にやりましょう」と声をかけてきたのは、同門の初段、柳生新陰流剣術の使い手でもある幻之介さん。
確かに初段になったのは、私より後だから、「先輩」と言われればそうなんだけど。
さすがに、幻之介さんは、週に3回稽古しているだけあって、技がうまい。
完全に私は追い越されているなあ。
2段になるのも時間の問題でしょう。
週に1回しか稽古できなくなった私には、2段なんて、永久に手が届かないだろうけれども。
数少ない稽古でも、一回の稽古を大事にしていかないといけないなあ。
……そんなことを思いました。
でも、久しぶりに所属道場の皆さんと稽古できて楽しかった。
しかし、関西合同研鑽会の楽しみは、同門との再会だけではありません。
……次回に続く……
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2010年12月14日
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実は体の転換で「相手を崩す」という事を最近まで知らなかったので、今回のコラム、興味深く読ませていただきました。