「そう言えば一昨年の今頃、姫路で古武道の演武会を見ました。確か文化の日だったなあ」
出稽古先の先生は、そう言いました。
「ああ、姫路城の古武道大会か。俺も姫路校の講座の後に寄ったことがあるけど。行くんやったら槍の演武は見とけよ。あれは生ではめったに見れんもんや」
武道13段の夫にそこまで言われると、その「姫路の古武道大会」が気になってきます。
ネットで下調べをしたところ、文化の日の連休に姫路城を中心にした観光イベント『姫路城物語2012』の一環として、姫路古武道連盟が演武会を開くようですが、公式サイトが見つからず、どういう団体が出てくるのかはわからない。
まあ、とりあえず行ってみるか。
古武道の演武会になれば、どの流派かはわからないけど、間違いなく古流柔術の流派が出てくるはず。古流柔術は、私が稽古している合気道の源流にあたる武術。
一度、実物の演武を見てみたい。
ちなみに「古武道」とは、明治時代以前に成立した武道のことで、明治以降に成立した剣道、柔道、空手道、合気道などは「現代武道」と呼ばれています。
『日本古武道協会』サイトによると、最盛期の江戸末期には「御留流(各藩秘伝の武術)」を中心に、弓術52、剣術718、槍術148、柔術179もの古武道の流派があったそうです。
さて、姫路城古武道大会当日の11月4日は秋晴れ。
紫外線で劇症日焼けを引き起こす弱い肌を守るために、コートに日傘という怪しげな風体で、私は一人、姫路城へ。
「白鷺城」として名高い国宝・世界文化遺産の姫路城天守閣は、今、50年に一度の大改修中。
テレビの時代劇でも知られる美しい姿を見ることができません。
でも、白壁の土蔵をイメージしたプレハブで天守閣を丸ごと覆った見学施設「天空の白鷺」があります。
改修中の天守閣を間近で見られるということで、予約券が完売になるほどの人気。
「天空の白鷺」も気になるし、日本庭園の「好古園」も気になる。
JR姫路駅の観光案内所でもらったチラシによると、姫路城古武道大会の会場は三の丸庭園。
西の丸庭園では甲冑・忍者装束着付け体験や、忍者ショー、殺陣体験やお茶席があるし、大手門では槍の演武か。
……うーむ。困った。
面白そうなイベントが、ほぼ同時刻に広い会場のあちらこちらで行われている。
困るなあ。体は一つしかない。
仕方ない。城と日本庭園は次回に譲って、とりあえず古武道演武大会と、夫のお勧めの槍の演武だけでも見なければ。
広い姫路城三の丸広場の中央には『姫路城古武道大会』と書かれた字幕が張り出されています。
紅白の幕とブルーシートでできた簡単な舞台が用意され、そこで演武が行われていました。
舞台では、空手着姿の子どもたちが元気よく型の演武をしています。
パンフレットによると、同じ流派の演武が、午前と午後の部で、それぞれ2回ずつ行われるらしい。
柔術や杖術、古流空手に混じって、和太鼓や吟道(朗詠)、剣詩武道という謎の演目も入っているけど……
まあ、「日本の伝統芸能が一堂に会した」という意味では、「古武道大会」の趣旨からはずれていないかもしれない。
しかし……まずいなあ。
お目当ての古流柔術は午後の部の最後か。
ここで演武される「本體楊心流柔術」は午前中の最初に演武したらしい。
来るのが少し遅かったな。
結局、午後の部から古武道の演武を見ることにしました。
ここでぜひとも見なければいけないのは、大手門前で行われる槍術の演武。
古武道大会では、琉球唐手「首里手」の技を引き継ぐ「糸東流空手」。
黒田藩御留流の「神道夢想流杖術(杖道)」。
念阿弥慈恩が創始したと伝えられる「一心流鎖鎌術」。
宗家が播州姫路藩本多家に仕えていた「本體楊心流柔術」。
そして、姫路城のイベントで初めて催される「蘇る鷹匠の技」。
時間が中途半端にあるので、三の丸広場をぶらぶらと歩いていると「忍者体験やってます。手裏剣投げてみませんか」と、白いテントの下で黒装束の忍者たちが、盛んに呼び込みをやっています。
たぶん、姫路の観光を盛り上げている「姫路忍者会」の人々だな。
家族連れに混じって私も並んでみました。
投げるのはテレビでおなじみの十字型をした手裏剣。
縁日のボール投げのように、机の上に並べた5枚の手裏剣を、3メートルほど離れたテントの壁に立てかけた畳めがけて投げる。
実際に使われるものと同じ黒塗りの手裏剣を畳の表に向かって投げるコースと、黒塗りの手裏剣の半分の重さの銀色の手裏剣を畳の裏に投げるコースがあります。
私は簡単な畳裏コースを選びました。
若い男性の忍者に教えられた通り、少し重たい手裏剣を、親指と四本の指で挟むように持ち、手首のスナップを利かせて正面に打ち下ろすように投げるのですが……
これがなかなか畳に刺さらない。
結局、5枚のうち、畳の裏に刺さったのは1枚だけ。
「最初はそんなもんです。いつもやってる僕らでも、3回に1回は畳に刺さりませんから」と忍者は笑っていました。
3回に1回刺さらない……
『決定版・図説日本武器集成(学研)』の現代の忍者による手裏剣の投擲実証実験でも、3メートル離れた直径30センチの木の的への命中率が約5割ですから、この数字は意外に正しいかもしれない。
一旦、城の外に出て軽く食事して、まずは12時半の「大手門・槍の演武」を見学。
足軽の鎧装束に身を包んだ門番が4人出てきて一礼。
二人ずつ向き合って掛け声とともに、数回槍を合わせた後、下がります。
その後、口ひげのある小柄な男性が出てきて、一人で槍を構えました。
鋭い気合とともに宙をなぎ払い、正面を突き、振り下ろす。
槍は「突く」のイメージが強いですが、「引く」「斬る」「叩く」「払う」など、さまざまな動きがあります。
説明がなかったので、この男性の流派はわからないけれども、腰のすわりや足さばきから見て、かなりの修練を積んでいるようです。
残念ながら、迫力ある槍の演武は意外に短く、あっという間に終ってしまいました。
また機会があれば、じっくりみたいものだなあ。
続く「蘇る鷹匠の技」は三の丸広場。
姫路城天守閣に住む不思議な力を持つ富姫と、白鷹を使う若い鷹匠・図書之助の悲恋を描いた泉鏡花の戯曲『天守物語』にちなんで、姫路城の空に白い鷹を舞わせるイベント。
日本の鷹狩りの歴史は古く、鷹狩りの記述は『日本書紀』にも登場しますし、江戸時代には将軍家の庇護もあって盛んに行われました。
『日本鷹匠協会』サイトによると、「鷹狩り」は、ユネスコが世界無形文化遺産に認定している立派な伝統芸能です
大勢の観光客が集まった三の丸広場の中心に、二人の若い女性が登場。
茶色の忍者装束、左手に皮の手袋、腰に餌の肉が入った籠とピンセット。
二人がコミカルな話術を織り交ぜながら、フクロウやノスリ、インコなどを次々と飛ばして見せた後、陣羽織姿の男性が登場。
男性が口笛を吹くと西の丸から真っ白な鷹が飛んできました。
シロオオタカと呼ばれる純白の鷹は華麗に青空を舞い、鷹匠が放り上げた縄のついた疑似餌を、空中ですばやくとらえ、急降下して地面に舞い降ります。
鷹匠と鷹に信頼関係がなければできない見事な技。
いやあ。なかなか珍しいものを見ることができました。
「蘇る鷹匠の技」が終ると、いよいよ姫路城古武道大会の午後の部が始まります。
……次回に続く……
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2012年11月13日
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