……他の武道家はどうなのか。
うちに空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段の武道家がいるから、観察してみよう。
夫はリビングのソファベッドで、のんびりと昼寝していました。
寝息をたてて熟睡中。
ふうむ。なるほど。
息を吸う時にお腹がふくらみ、息を吐いてる時にお腹がへこんでいる。
でも、丹田呼吸法の時ほどお腹がふくらんでないなあ。
人間は基本的に立っている時は胸式呼吸、寝ている時は腹式呼吸で息をしているのですが。
これは普通の浅い腹式呼吸。
なんだ。武道やってる時以外は普通でいいのか。
安心して仕事に戻ろうとすると……
「なんか用か?」
後ろから声をかけられました。
驚いて振り向くと、夫が上半身を起こして私を見ています。
「いや、寝ている時も丹田呼吸法してるのかなあ、と思って」
「あほ。「息吹」みたいなこと、四六時中やっとったら、しんどいやないか」
空手の丹田呼吸法の基本「息吹」は、丹田まで息を一気に深く吸い込み、一気に激しく息を吐くもの。
夫に実演してもらったことがあります。
まず、足を肩幅に開き、拳を握る「不動立ち」で立つ。
両拳を顔の前で交差させながら、息を丹田まで深く吸い込む。
顔の前で交差した手をゆっくり元の位置に戻しながら、丹田から息を力強く吐く。
部屋の中に強い「気」が充満してきて、それが夫に収斂していくように感じたけど……。
確かに、あれを一日中やるのは、しんどそうだ。
もっとも合気道の丹田呼吸法、「息をお腹いっぱいに吸い込んで、ゆるやかに細く長く吐き続ける」だって、一日中やるのはしんどい。
「まあ、胸式呼吸でも腹式呼吸でも、呼吸の仕方なんて、必要に応じて切り替えたらええんや。そやけど、日頃鍛錬してなかったら、切り替えるのが難しくなるんやで」
夫は私をにらみました。
「こないだも、丹田呼吸法のことすら思いつかんかったやろ。普段の稽古が足らんのや」
「……申し訳ありません」
返す言葉もありません。
もっと稽古しなきゃ。
ちなみに、呼吸について、『日本ALS協会宮城県支部 ホームページ ゆつける』には、興味深い記述があります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)。
進行すると嚥下障害や呼吸筋の麻痺などによる呼吸不全が起こり、経管栄養や胃瘻造設(いろうぞうせつ)、人工呼吸器などの処置が必要になる難病。
「悪化すれば人工呼吸器なしでは生きられない」点は喘息と似ています。
『横隔膜の位置は姿勢によってかわります。身体の中で胸腔と腹腔を隔てている横隔膜は下に位置するほど、胸郭の体積が大きくなりますが、臥位(寝た姿勢)で高く、座位(座った姿勢)で低くなります。すなわち、一般的には座位の方が機能的残気量という肺の中に残っている空気の量が多くなり、ガス交換がより多くできると考えることができます』
喘息発作の時、寝ているより座る方が楽なのは、理にかなっていたんだと思いきや……
『腹式呼吸は主に横隔膜を使って行いますが,他の筋をあまり使わないため、効率の良い呼吸といえます。これに比べて胸式呼吸は、胸郭を上に持ち上げるため胸鎖乳突筋や斜角筋といった多くの筋を使います。これでは必要な酸素を取り込むために多くの筋を働かせ、過度のエネルギーを消費してしまうことになります』
痩せられそうな気もするけど。
ALS患者にとっては、体力の消耗になるのでいけないらしい。
『「息を吸う」のは横隔膜や胸鎖乳突筋・斜角筋などのはたらきによって行われますが、「息を吐く」のは肺が縮もうとする肺自体の弾性によって多くが行われています。息を吸うことをやめると肺は自然に縮もうとして肺の中にある空気を押し出していきます。もっと息を吐ききるときには腹筋群が働きます』
なんとなくわかってきた。
「息を吐く」動作は、「息を吸う」動作よりも無意識なものらしい。
やってみるとわかりますが、仰向けに寝ている状態での胸式呼吸は大変。
重力で背中や肩や首の筋肉が床に押しつけられて動かせないからです。
この姿勢で楽に動かせるのは横隔膜と腹筋。
寝ている時は、お腹に垂直に重力がかかっているから浅い腹式呼吸。
起きている時は腹式呼吸するのには腹筋力が必要になるので、負担の少ない胸式呼吸。
無意識に体が楽な方の呼吸法を選んでいるのでしょう。
武道の丹田呼吸法のように、体を起こした状態で、腹筋を使って息を大きく吐く腹式呼吸は、意識してやらないとできないことなのです。
このサイトでは、ALS発症の初期段階で、呼吸筋力を維持するために行う呼吸リハビリテーション「腹式呼吸」「口すぼめ呼吸」について詳しく書かれています。
腹式呼吸の訓練法は、片手を軽く胸に当て、もう一方の手はお腹に当てる。
息を吸った時にお腹がふくらむのを感じながら、この動きを大きくし、胸の動きが小さくなるように意識する。
「口すぼめ呼吸」は、鼻から「1、2」と、頭の中で数えながら息を吸い、口をすぼませながら、今度は「1、2、3、4」と、吸った時の倍の時間をかけて吐いていく。
この「口すぼめ呼吸」と「腹式呼吸」をワンセットにして、1回につき数分間、1日3回程度行う。
呼吸が乱れて苦しくなれば休んで、自分にとって楽な呼吸法に戻していい。
喘息の私も、腹式呼吸はともかく、この口すぼめ呼吸はきついですね。
特に「鼻から吸う」ところが。
でも、鼻から息を吸う方が、雑菌やアレルギー物質を肺に吸い込むことが少なくなるから、普段の生活では、この呼吸で、合気道の稽古の時や喘息発作の時は丹田呼吸法と使い分けるようにしたいですね。
今回、呼吸について調べてわかったこと。
体を起こした状態での腹式呼吸、特に丹田呼吸法は、意識的な訓練と、腹筋を鍛えることが必要。
放っておくと、楽な胸式呼吸になってしまいますから。
やっぱり、夫の言うように、もっと家でもできる稽古を増やさなきゃダメですね。
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